気づけば俺は、教室の前にいた。
皐月と別れてからの記憶が曖昧で、人間はここまで知能が落ちるものかと自分自身驚く。


「あれ?木瀬、ネクタイどしたん?っていうか、顔赤くね?」


教室に入って窓際の自席に行こうとすると、クラスメイトの田中が怪訝な顔をして話しかけてきた。


「〜っうるさい。忘れたんだよ」


思わず語気が強くなるが、田中は気にした様子もなく「へぇー」と相槌を打つ。


「珍しいこともあるもんだ。風紀委員なのにいいのか?」

「ほっとけ」


SHR前の教室は空気がざわつく。
こんな会話が教室中のあちこちで聞こえてくる。
かくいう俺も、これ以上ないくらい落ち着きがなかった。
いつもなら特に気にもとめないクラスメイトの言葉に対しても、冷静に対応できずに今朝のことを思い出して動揺してしまう始末。
…それもこれも、全部あいつのせいだ。
窓の外に目をやり、ぼんやり校庭を眺める。
…いや、ぼんやりとなんてできないから、そうしようとしているの間違いかもしれない。
何も考えないなんて、今この状況でできるわけないだろ。
皐月がネクタイ忘れたから貸しただけなのに、なぜか突然告白されて…。
それにまんまと嵌ってしまう俺。

「…はぁ」