その日、家に帰ると珍しく母がテレビの前に座っていた。音楽番組の特番がやっているらしい。反響するようなテレビの音を聞きながら、私はソファーにリュックを投げ置き、制服のブレザーをハンガーにかける。そういえば、特番には&moreも出演すると告知があった。横目でテレビを観ていたら、母がおもむろに私を振り向いた。
「アイドルになりよるんやってねぇ、香織ちゃん」
「学校、その話ばっかりや。他話すことないんかなって思う」
「昔から可愛かったもんなぁ、あの子。朱花も香織ちゃん見習って少しくらい見た目に気ぃ遣ったらどうなん」
「……うるさいな」
 苛立ちに任せて弁当箱をシンクに置くと、随分と乱雑な音がした。山梨香織が努力しているかなんて、私とどちらが気を遣っているかなんて、どうせ母は測れもしないくせに。想像で創られた構図に嫌気が差す。それっきり口を閉ざすと、母はやれやれとでも言うように首を竦め、向き直ってまたテレビを眺め始めた。母はしばらくそうしていたが、何回目かのCMが開けると唐突に声を上げた。
「朱花! これ香織ちゃんちがう?」
「かおり?」
「ほらこれ! この今映ってる子!」
「……ちょっとどいて」
 母を押しのけるようにしてテレビに張り付く。