グループの公式SNSで彼女の名が世界に放たれると、その知らせは瞬く間に学校中を駆け巡った。五限が始まる前の、昼休みのことだった。クラスメイトたちは駆け寄ってスマホの画面を友人に見せ、興奮したように山梨香織を取り囲む。上級生も下級生も、〝アイドルの山梨香織〟を一目見ようと、廊下から溢れ出んばかりに教室へと押しかけた。
「&moreになりよるんやって、香織ちゃん。すごいねぇ」
人に流されるように私の席にやってきた詩子は、山梨香織を中心に据えた人集りを眺めながらぼんやりと言う。その口調は、既に昨日まで同じ教室に机を並べていた同級生に向けるものではなく、まるで山梨香織は雲の上の存在だと認め、憧憬さえ感じている風だった。詩子は私に同意を求めているようだったが、私はそれに応えず、「ふぅん」と興味なさげに相槌を打つ。
「朱花ちゃん好きやない? &more」
「んー、好きやないっていうか、あんま知らんかも」
「今いっちばん人気のアイドルやよ。日本だけやなくて韓国とか、アメリカにもファンがいるん」
「へぇ、そうなんや。すごい勢いやね」
「ねー。あーでもそっかぁ。朱花ちゃん知らんのか、もったいない。こんな田舎からゲイノウジンが出るなんて思わんかったなぁ」
「名前は知っとるよ」
「名前だけは知っとるって言わんよ」
詩子は繰り返しすごいねぇ、と山梨香織を褒めた。詩子だけでなく、クラスメイトも、先輩も、後輩も、先生までもが山梨香織のオーディション合格を称えた。
小さな町は山名香織の話題で持ち切りになり、それはじきに町で山梨香織を知らない人間はいなくなるだろうという勢いだった。
「&moreになりよるんやって、香織ちゃん。すごいねぇ」
人に流されるように私の席にやってきた詩子は、山梨香織を中心に据えた人集りを眺めながらぼんやりと言う。その口調は、既に昨日まで同じ教室に机を並べていた同級生に向けるものではなく、まるで山梨香織は雲の上の存在だと認め、憧憬さえ感じている風だった。詩子は私に同意を求めているようだったが、私はそれに応えず、「ふぅん」と興味なさげに相槌を打つ。
「朱花ちゃん好きやない? &more」
「んー、好きやないっていうか、あんま知らんかも」
「今いっちばん人気のアイドルやよ。日本だけやなくて韓国とか、アメリカにもファンがいるん」
「へぇ、そうなんや。すごい勢いやね」
「ねー。あーでもそっかぁ。朱花ちゃん知らんのか、もったいない。こんな田舎からゲイノウジンが出るなんて思わんかったなぁ」
「名前は知っとるよ」
「名前だけは知っとるって言わんよ」
詩子は繰り返しすごいねぇ、と山梨香織を褒めた。詩子だけでなく、クラスメイトも、先輩も、後輩も、先生までもが山梨香織のオーディション合格を称えた。
小さな町は山名香織の話題で持ち切りになり、それはじきに町で山梨香織を知らない人間はいなくなるだろうという勢いだった。



