婚活中毒

 姫果が真顔で言った。
「え、いきなり何?」
「婚活を長いことしているとさ。初めは結婚相手を探すためにやっていたつもりでも、婚活すること自体が趣味になっていないかな」
 普段の姫果からは想像もできないほどの毅然とした様子に、亜沙美は戸惑う。
「え……?」
「上を見るとキリがないというか。もっと好条件の人がいるはずってね。婚活そのものにどっぷり浸かって抜け出せなくなるの」
「確かに……そうかも」

 亜沙美から見れば、姫果は四人の中でも目立つ方ではなかった。派手な美人でもなければ、ファッションやメイクに強いこだわりがあるようにも見えない。
 だからこそ亜沙美は、心のどこかで「自分より先に結婚することはない」と決めつけていたのかもしれない。

「わたしのおばあちゃんはね、結婚するなら“一緒にいて楽しい人より、離れていると寂しいと思える人がいい”って言ってたよ」

 自分よりも恋愛経験は少ないはずの彼女。自分が負けるわけがない。自分は出会う男性のために外見に気を遣った。習い事もした。一人暮らしもして、自立もした。こんなにも努力しているのにどうして報われないのだろう。まさか、姫果からアドバイスをされるとは思ってもみなかった。

「一緒にいて楽しい=結婚相手とは限らないからね」
 姫果の言葉を引き継ぐように、結美が口を開いた。

「うちの旦那は冗談通じないから、初めて会った時は超つまんなかった。でも、ある日あたしが別の男に“お前とだけは結婚したいと思えねえわ”って言われて言い返そうとしたら、“じゃあ仮に僕が結美さんと結婚することになっても、あなた絶対彼女に言い寄らないって誓えますか? というか、その発言、冗談でも笑えないし失礼ですよ。僕よりつまらない男になりたいんですか?”って言ってくれて。その瞬間に落ちた」
「旦那さんカッコ()っ!」
 亜沙美は思わず反応する。素のままの言葉だった。
「後で聞いたら、その男あたし狙いだったらしくて。本当に結婚決まったら“マジであいつと結婚するのか?”って言ってきてさ。だから“お前とだけは結婚したいと思えねえから”って巨大ブーメランかましてやったわ」
「わー、めっちゃスカッとじゃん」
「だからさ、亜沙美も顔とか見かけのスペックじゃなくて。“何よりも誰よりも、亜沙美のことを大切にしてくれる人”が現れたら、絶対に離しちゃダメだよ」
「うん、そうだね。ありがとう、ちょっと希望が持てた」

「あの……」
「どうしたの? 姫果」
「実はね、私の彼の友達なんだけど」
「うん」
「亜沙美ちゃんの写真見せたら、会ってみたいんだって」
「おお、来た! 姫果グッジョブ!」

 
「で、どうする? 会ってみる?」
「うーん……写真は?」
「ほら、またそれ」
「あ……」

 亜沙美は一瞬だけ黙った。

 今までなら、まず顔を確認していた。年収、身長、職業、趣味――条件をひとつずつ並べて、会う価値があるかを判断していた。