「花梨……ひとりで帰れそう?」


 莉奈の家の玄関で、美蕾が不安そうに尋ねてくれる。朝までオールしてたくさん喋ったからか、ふたりの顔には少しの疲労が乗っている。

 莉奈の家に泊めてもらい、3人で笑いながら夜を明かしたあと、お母さんともう一度向き合おうと考えていることをふたりに伝えた。
 いつまでも逃げてばかりじゃ、何も始まらないから。限界になったときに、頼ることができる友達がいることを実感したから。

 ふたりのおかげで、自ら家へ帰ろうと思えたのだ。スマホの電源を落としているけれど、きっと母から鬼のように連絡が来ているに違いない。怒られるのは明白だけど、それでも強く自分を保って向き合いたいと思ったのだ。

 心配そうにしてくれるふたりの友人に、うなずいたあと微笑んだ。

「……莉奈、泊めてくれて本当にありがとう。美蕾も、昨晩いっぱい話を聴いてくれてありがとう。本当に本当に、ふたりのおかげだよ」

「困ったときはお互い様だから。花梨が私たちを頼ってくれたのも、すごく嬉しかったしさ」
「ほんとにほんとに! りんりん、あたしまーじで応援してるからね……! もう無理だって思ったら、またうちに来ちゃいな? いつでもウェルカムだからさ!」

「……うん。莉奈の優しさにすごく救われてるよ」

 にこっと自然に笑えば、彼女は同じように顔を綻ばせた。そして、わたしの手をぎゅっと両手で握りしめて、こう言った。

「りんりんならきっと大丈夫。もし家族にわかってもらえなかったとしても、あたしたちはりんりんのこと、ちゃんとわかってるからね」

 彼女の言葉と声の温かさに、鼻がツンとする。泣きそうになるのをグッと堪え、その代わりに大きくうなずいた。

「……莉奈、美蕾。わたし、ふたりのこと大好きだなあ」

 照れくさいけれど、思ったままに呟く。親友たちは顔を見合わせて微笑んだあと、わたしの背中をポンっと押してくれた。

「いってらっしゃい、りんりん!」
「待ってるからね、花梨」

 わたしは大丈夫。きっと、大丈夫。
 ふたりにめいいっぱい手を振りながら、平静を保ちつつ、なんとか莉奈の家を出た。