小高い丘の緑に囲まれた一角に植えられている一本の樹がそよ風に揉まれていた。昨日までの灼けるような暑さも、今日は風がある分、少しましな気がする。
「渉くん、さとちゃん来たよ」
手を合わせていた俺の横で、まこが声をかける。目を開いて、そちらを見ると手を振る山川と旦那の正博さんがこちらに向かっているのが見えた。
「まこちゃん、成田くん久しぶり!」
近づいてきた山川が声をかける。暑さは少し和らいだとは言え、少し歩くと汗が出る。「さとちゃん、正博さん、わざわざ、ありがとうございます」
「正博さんは今日はお休みですか?」
ハンドタオルで汗を拭っている正博に声をかける。
「ああ、今日はうまいこと休みがあったから、一緒に来させてもらったよ。僕は初めてだけどいいところだね」
正博は丘から見える風景を眺める。目の前にある小さな石碑以外は、人工物はなく緑に囲まれている。
「命日って言っても、無宗教なので特に儀式とかはないんです」
「そのうえ、樹木葬の合葬墓だから、俺らも思い思いに手を合わせていますよ。まあ、あこにしたら、一人よりにぎやかでいいと思います」
「……そっか、もう一年も経つんだね」
山川がしみじみと言った。
あの後、俺はあこを見つけるために世話になった人たちに順番にお礼を言いに行った。特に山川と旦那の正博さんにはずいぶんとお世話になったので、事の顛末を詳細まで話した。
思っていた通り正博さんはとてもいい人で、親身に話を聞いてくれた。山川はあこが亡くなったと聞いて、ずいぶんとショックを受けていたが、こうやって機会があるごとにあこのところに来てくれる。
山川たちが石碑の前で手を合わせている。俺とまこは少し早めに着いたので、既にお参りを済ませてある。
「さとちゃんたちに来てもらえて、姉も喜んでいると思います」
まこの言葉に山川は軽く首を振る。
「まこが一番、喜ぶのは二人が仲良くしていることだよ。少しは二人の仲も進んだ?」
山川に言われて、まこは顔を赤くしてうつむく。横から俺が助け舟を出す。
「ぼちぼちだよ」
「ぼちぼちねぇー」
山川が嬉しそうに、正博にアイコンタクトを送る。
こいつ中学校のこんなキャラじゃなかったのに……。結婚は女性を強くする。
「まこちゃんはきれいだから、逃げられないように気をつけないとな、渉くん」
正博も面白がって被せてくる。
「いやいや、俺らは俺らのペースがあるんで……なあ、まこ?」
会話を振ろうとするが、まこはうつむいて恥ずかしがったままだ。
あれから約一年が経ったが、俺とまこの関係は大きく変化はしていない。あれだけのことがあったんだ、二人が気持ちの整理をつけるのはもう少し時間がかかる。
でも悲観はしていない。少しずつ、本当ゆっくりだけど、俺とまこは歩みを進めている。あの夏の『恋愛ごっこ』はもう終わったのだから、それぞれのペースで未来に向かう。きっとあこも見守っていてくれる。
……また来るよ。
心の中でつぶやいて、歩き出す。
小高い丘にまた微かな風が吹いて、緑を揺らす。また一つ季節が回ろうとしているのを感じていた。
了
「渉くん、さとちゃん来たよ」
手を合わせていた俺の横で、まこが声をかける。目を開いて、そちらを見ると手を振る山川と旦那の正博さんがこちらに向かっているのが見えた。
「まこちゃん、成田くん久しぶり!」
近づいてきた山川が声をかける。暑さは少し和らいだとは言え、少し歩くと汗が出る。「さとちゃん、正博さん、わざわざ、ありがとうございます」
「正博さんは今日はお休みですか?」
ハンドタオルで汗を拭っている正博に声をかける。
「ああ、今日はうまいこと休みがあったから、一緒に来させてもらったよ。僕は初めてだけどいいところだね」
正博は丘から見える風景を眺める。目の前にある小さな石碑以外は、人工物はなく緑に囲まれている。
「命日って言っても、無宗教なので特に儀式とかはないんです」
「そのうえ、樹木葬の合葬墓だから、俺らも思い思いに手を合わせていますよ。まあ、あこにしたら、一人よりにぎやかでいいと思います」
「……そっか、もう一年も経つんだね」
山川がしみじみと言った。
あの後、俺はあこを見つけるために世話になった人たちに順番にお礼を言いに行った。特に山川と旦那の正博さんにはずいぶんとお世話になったので、事の顛末を詳細まで話した。
思っていた通り正博さんはとてもいい人で、親身に話を聞いてくれた。山川はあこが亡くなったと聞いて、ずいぶんとショックを受けていたが、こうやって機会があるごとにあこのところに来てくれる。
山川たちが石碑の前で手を合わせている。俺とまこは少し早めに着いたので、既にお参りを済ませてある。
「さとちゃんたちに来てもらえて、姉も喜んでいると思います」
まこの言葉に山川は軽く首を振る。
「まこが一番、喜ぶのは二人が仲良くしていることだよ。少しは二人の仲も進んだ?」
山川に言われて、まこは顔を赤くしてうつむく。横から俺が助け舟を出す。
「ぼちぼちだよ」
「ぼちぼちねぇー」
山川が嬉しそうに、正博にアイコンタクトを送る。
こいつ中学校のこんなキャラじゃなかったのに……。結婚は女性を強くする。
「まこちゃんはきれいだから、逃げられないように気をつけないとな、渉くん」
正博も面白がって被せてくる。
「いやいや、俺らは俺らのペースがあるんで……なあ、まこ?」
会話を振ろうとするが、まこはうつむいて恥ずかしがったままだ。
あれから約一年が経ったが、俺とまこの関係は大きく変化はしていない。あれだけのことがあったんだ、二人が気持ちの整理をつけるのはもう少し時間がかかる。
でも悲観はしていない。少しずつ、本当ゆっくりだけど、俺とまこは歩みを進めている。あの夏の『恋愛ごっこ』はもう終わったのだから、それぞれのペースで未来に向かう。きっとあこも見守っていてくれる。
……また来るよ。
心の中でつぶやいて、歩き出す。
小高い丘にまた微かな風が吹いて、緑を揺らす。また一つ季節が回ろうとしているのを感じていた。
了



