暗い部屋で再生回数とコメントを見るのが日課になっていた。
歌投稿を初めて半年…再生回数は一万回再生が安定してきた。自分でもなんでこんなに再生されているのかわからない。
コメントでは褒めてくれる人がほとんどだ。たまにアンチコメントがあるくらいだった。
『歌声が好き』『泣いた』『大好きです』『応援してます』そういった言葉でコメント欄は溢れかえっていた。
やはりコメントは嬉しい。自分の歌が肯定されたような気がする。そして俺は今日のことを思い出していた。
猪狩泉 同じ高校の隣のクラスの同級生。ただの同級生。
彼に歌声を聞かれそれからしつこく付きまとわれた。
『莇の歌声に惚れて、もう一度聴きたいんだ!!!』
その言葉を聞いてネットで歌を投稿していることを教えた。というか教えてしまった…。
あんな真っすぐな瞳で惚れたなんて言われたら教えない訳にもいかない。
猪狩の存在は入学当初から知っていた。明るくて男女問わず彼の周りには人が集まっていていつも賑やかだった。
俺とは住む世界が違う。それが率直な感想。そんな彼が俺に話しかけてきた。
正直とても驚いた。友達と呼べる人なんて一人もいない俺に…住む世界が違う俺に…。
猪狩は屈託のない笑顔を俺に向ける。それが少し嬉しかったりする。
『蛍、いつかきっと蛍を見つけてくれる人が現れるよ その時は拒否なんてしちゃ駄目だよ』
あの人の言葉を思い出す。
「…姉さん」
俺はそっと呟いた。


