あれから俺は莇の歌声に心を奪われ猛アタックを続けた。
「あーざーみ!」
隣のクラスの莇はイケメンで女子から人気が高いのもあって存在は知っていた。
クールな雰囲気で物静か、あまり人とはつるまない性格。学校が終わり次第すぐに帰る。
本当に誰かといるのを見たことがない。
そんな莇に俺が声をかけると莇はいつも怪訝な顔をする。
「また歌ってよ!俺 莇の声にやられちゃって…ってうお!」
俺の言葉を聞かずに腕を思いっきり莇に引っ張られ人気のない階段の踊り場に連れて行かれる。
ドンっ
そして思いっきり壁に押しやられる。
「痛っ」
顔を上げると莇の顔が近くにあった。
(背高っ…)
いつも莇に声をかける時は勝手に隣のクラスに入り席に座っている莇に声をかけていたおかげで背が高い事に気づいていなかった。どっちかというと女のような綺麗な顔をしている莇が背が高いなんて想像もしていなかった。この壁ドンの状況に少しドキッとしてしまう。
そんな綺麗な顔の莇から出た言葉は
「お前、うざい」
「へっ?」
そして莇はその言葉を吐いて去っていこうとする。
「ちょっちょい待って!うざ絡みしたのはごめん!でも…莇の歌声に惚れて、もう一度聴きたいんだ!!!」
その言葉を聞いて莇は足を止めた。
そして少しの沈黙…
「…?」
数秒して莇は振り返った。
「…ケイ」
「ケイ?」
俯き気味だった莇は遠慮気味に俺の目を見て言った。
「ケイって名前でネットで歌うたってるから…」
そう一言残して莇は去って行った。