「ははっ」
(何だこれ)
俺は姉さんの墓石の前でトイレに向かった泉の背中を眺めていた。
そして姉さんの墓石に向き直る。
「姉さん」
あの出来事の後、引きこもりがちになった俺を励ましてくれるのはいつも姉さんだった。
無責任に大丈夫とは言わず俺に寄り添ってくれた。時には言葉をかけずただ傍にいてくれた。
姉さんがよく言っていたのは『諦めるにはまだ早い』そう言っていた。
『人生100年時代…何が起こるかわからない。蛍、いつかきっと蛍を見つけてくれる人が現れるよ その時は拒否なんてしちゃ駄目だよ』
そんな人、一生かかっても現れないと思っていた。
姉さんが結婚すると聞いた時少し嫉妬した。俺はどうあがいてもこの国では結婚は出来ない。
幸せになれない。そんな気持ちが伝わっていたのかもしれない。
『幸せになることを自分から諦めちゃ駄目…私の大切な弟…蛍大好きよ』
その言葉が最後だった。俺が嫉妬したせいで神様は姉さんを連れて行ってしまったのか…なんてお門違いな考えを思ったこともある。
「…俺、幸せ掴めそうだよ」
そう口に出した時、ポロっと涙がでた。
なんの涙だろう。嬉しいのか安堵したのか…この涙の意味がわからない。
分からないけど…悲しくはない。
「え!どうした?蛍?」
トイレから帰ってきた泉が心配そうに俺の顔を覗き込む。
「ううん、なんでもない」
「何でもない奴が泣くかよ」
そう言って泉は俺の背中に手を回し撫でてくれる。
「大丈夫だよ、蛍 俺が傍にいるから」
その言葉に俺は笑った。俺には心強い味方がいる。
だから姉さん、安心してね。


