たまたまだった。
いつもは屋上になんて行かない…、行かないのになぜかその日は空が見たくなった。
きっとさっき読み終わった小説のせいだ。恋人を亡くした主人公が亡くなったという事実を受け入れられず姿を消す、姿を消した先で色々な人との出会いで心は癒されていき…最後は青い空を見上げて泣くという物語だった。
「…ずびっ」
泣きまくったせいで鼻が詰まる。
普段空なんて見ない俺は小説に感化され空を見たくなった。屋上の階段を一歩一歩上りながら、屋上へと続く扉に手をかける。
扉を開くと青く広がる空が一面に広がっていた。
(空ってこんな青かったっけ…)
屋上の手すりに腕をかけ深呼吸し、青い空を見上げていた。
(たまにはいいな、こういう時間も…)
すると風と共に綺麗な音色が聞こえた。
低すぎず高すぎず心地良い綺麗な歌声。俺は聞こえてくる歌声の方へに振り返る。
そこには太陽の光を纏い穏やかな表情で空に向かって、まるで天使のように歌う男子生徒の姿。
「…莇螢」
俺は彼の名前を呟いていた。
その瞬間ピタッと止まる歌声。
「…誰」
その天使は眉をひそめ怪訝な顔をして俺を見た。それが俺と莇螢との出会いだった。