「現実…?」

家に帰り風呂に入って今日の出来事を反芻する。
夢のような一日だった。こんなことが俺の人生に起こるんだと他人事のように思う。

「…(いずみ)、可愛かったな」

今日の(いずみ)の姿を思い出す。顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俺を見上げる姿がもうたまらなく可愛かった。

「…俺、おかしくなりそう」

嬉しすぎて気が抜けると顔がにやける。
【浮かれる】とういのはこういう事を言うんだろうな。
俺は浮かれている気持ちで今日アップした曲のコメントを読む。
有名インフルエンサーのおかげか最近は前よりコメントがつくようになった。
今回の曲は同性に恋をしてしまった子の歌。恋をしてはいけない人を好きになった…その葛藤を現した歌だ。
コメントを一件、一件読む。するとひとつのコメントが目に留まった。

『昔同性に告白されたことがあります。動揺して酷い言葉を浴びせてしまった。もう一度会えるならあの時のことを謝りたい。』

そのコメント見て昔の自分と重なった。告白をされた側も何かしらの傷があるのだと思った。
起こってしまったことはもう取り返しがつかない。せめて傷が少しでも癒されますように…。
そう願うことしか俺には出来ない。せめて…せめて…少しでもと。

そして俺はひとつの決心をし、泉に連絡を入れた。













「けーい!」

泉の声がして携帯から顔を上げる。
すると道の向こうから小走りで走ってくる人影が見えた。
手を振りながら笑顔で走ってくる泉の姿。

「おはよう、(けい)
「おはよう、(いずみ)

(いずみ)はやっと俺の事を名前で呼んでくれるようになった。
照れくさいと言いながら名前で呼ぶのに少し時間がかかった。

「じゃあ行こうか」

俺がそう言って(いずみ)の手を握る。
(いずみ)は小声で「ぉ、おう」と返事をして二人並んで歩いた。
その少し照れている仕草が可愛くて心が満たされる。
こうやって好きな人の隣を手を繋いで歩ける日がくるなんて数年前の自分はこれっぽちも思っていなかった。
こんな幸せだと思える日がくるなんて…。