今日何だか家に帰りたくなくて俺は学校近くの公園にいた。
頭の中は猪狩のことばかりで、あんな顔させたかったわけじゃない。
俺に嫌われる勇気があればあんな顔をさせずに済んだかもしれない。カミングアウトしてもこのまま避け続けても最終的に嫌われるのは同じだ。だけど…まだ嫌われるのが怖い。拒否されるのが怖い。
またあの時みたいな言葉を浴びせられるかも…。そんな恐怖が俺を襲う。
「みーつーけーた!!!!!」
その大声にびっくりし振り返る。そこには凄い剣幕の猪狩がいた。
「いが、り…」
「お前なああ!!俺を避けてる理由ってこれか!?」
そう言って俺に動画の画面を見せてくる。
「…っ」
それは今日アップした新曲。
「あのさ、違ってたら恥ずかしいんだけどこれって俺のこと?」
真っすぐな瞳で聞いてくる猪狩。
俺はその真っすぐな瞳から目を逸らす。とてもじゃないけど見れない。
「…はぁ」
猪狩のため息にビクッと身体が反応する。
「…あのなあ、俺がそれを聞いて軽蔑するとでも?」
「…え?」
予想外の言葉に俺は顔を上げる。
「そう見られてたなんてなあ~ショックだわ」
「あ…いや、あの…」
俺が何て答えるか悩んでいると猪狩が口を開く。
「これ同性愛の歌だろ?バカな俺にもわかる」
「………」
「それにひとつ気づいたことがある」
「…気づいた、こと?」
猪狩は俺に向き直り真っすぐな瞳で言った。
「俺はお前のことが…好きなの、かも」
「………ぇ」
猪狩の声以外の音が消えた。
(…聞き間違い…?)
そんなこと俺の人生に起こるわけない。
「…なんだよ反応悪っ…」
「いや、だって」
「嘘じゃねーよ、お前をからかってるわけでもない、俺の本心」
「…猪狩は、だってゲイじゃ、ないでしょ」
「うーん、それはわかんねー」
「わかんねーって…」
「だって俺今まで誰かを好きになったことねーもん」
猪狩のその言葉に頭を傾げる。
「…でも莇に避けられて一緒の時間を過ごせなくなって辛かった」
「…猪狩」
「柄にもなく泣いちまった」
「なっ…」
泣いた!?猪狩が?
「離れて分かった、心がもやもやして寂しくて…お前の歌を聞いて分かった」
「………」
「俺、お前のこと好きなんだなって」
「…でもそれって、友達の好きじゃ」
すると猪狩は俺の手を握った。
「…っ!」
「触れたいと思うのは友達の好きか?」
純粋な目で見てくる猪狩に俺は項垂れた。
これはもう…完敗だ。
「俺も猪狩が好きだ」
「………」
「好きだから遠ざけた…同性から好かれることは異性愛者からしたら気持ち悪いと思う…猪狩は俺のこと友達だと思って接してくれてると思ってたから」
「………」
「俺ばかり好きになって、猪狩に軽蔑されたくなかった」
猪狩は俺の話を静かに聞いていた。
「…怖いよな…」
ボソッと呟く猪狩の声を俺は聞き逃さなかった。
「でも、これからはもう怖がらなくていい」
「……」
「俺はお前が好きだから」
そう言って猪狩は笑った。