言葉に詰まっている莇。
『…悪いのは俺』
莇のその言葉の意味がわからない。
「なあ、莇それってどういう…」
「ごめん」
そう言って莇は屋上から去って行った。
俺の横を通る時、莇の香りがふわっと香った。
いつも隣にいた…ふたりだけの屋上だった。なのに、今は距離が遠く感じる。
ポタっ
一瞬雨かと思った。地面に落ちる雫が自分の瞳から流れていることに気づくのに少し時間がかかった。
去るもの追わずの俺が今までこんな気持ちになったことはなかった。
正直どうでもよかった。なのに相手が莇になっただけで、どうしてこんなに胸が痛いんだ?
辛いんだ?どうして涙が止まらないんだ?
「……っ」
(どうして…?)
「大丈夫か…?」
聞きなれた声がした。こんな泣いている顔を見られなくなくてすぐに振り返れない。
「猪狩」
肩を掴まれ振り返る。
「…片瀬」
「ちょっといいか?」
片瀬に連れられて俺は学校近くの河川敷に来ていた。
ふたりで並んで腰を下ろす。
「言うか迷ったんだ」
「……?」
「俺、莇と同じ中学だった」
「え!?何それ初耳…」
片瀬は何かを思い出すように話し始めた。
「同じクラスになったことはなかった…ただある出来事で莇の事は知った」
「…出来事?」
「ゲイだってこと」
「ゲイ…?」
「莇がある男子に告白したってことが噂になって学校中に広まった」
「…なんだ、それ」
「それから莇は学校に来なくなって俺は高校で莇を見つけた…中学の頃と少し雰囲気は変わっていたけどすぐに分かった…」
「……」
「猪狩はさ、莇の話を聞いてどう思った?」
「…どうって」
「ゲイかもしれない…それを聞いて」
「…別に何も変わらない、莇は莇だし…それが事実だとして何か変わるのか?」
「ふっ」
俺の言葉を聞いて片瀬は笑った。
何故片瀬が俺にその話をしたのか…わからない。
「まあ、後は莇の歌を聞いたらわかる」
「え?知って…」
「俺はそこまで鈍感じゃない」
すると片瀬は携帯で莇の動画を開き見せてきた。
「莇の新曲」
片瀬が帰った後、ひとり暗くなり始めた河川敷で莇の新曲の画面を眺めていた。
すぐに再生できずにいた。
「………」
そして俺は少しの勇気を出して動画の画面をタップした。


