いつも通りの屋上いつも通りの青い空。
さっきの猪狩の顔が頭を過る。
(あからさますぎたよな…)
猪狩驚いた顔してたな…。そりゃそうだ。あんな態度…。
でもそうでもしないと自分の気持ちを消化出来ない。
俺はまた気づいたら歌っていた。新しく浮かんだメロディー、猪狩を思うとあふれ出る。
幸い新曲には困らない。次から次へとあふれ出るメロディーと決して口に出来ない言葉たちを歌にして一番届けたい相手には一生届かない。そんな曲をずっと作っている。卑怯だと言われればそうだ。伝える勇気がないから歌にする。傷つくのが怖いから言葉にしないくせにどこかでこの曲の意味に気づいてほしいと思っている自分がいる。本当に自分が情けない。
「…あの、もしかしてケイさんですか?」
ドキッと心臓が鳴る。咄嗟に振り返るとそこには見慣れない女生徒がいた。
(まずい…歌聞かれた)
「あ、ぇ」
「私ケイさんの大ファンで!いつも曲聞いてます!歌声聞こえて思わず来ちゃいました!その声ケイさんですよね!」
目を輝かせながら話す。直感的にまずいと思った。
こういう場合何を言えばいい?どうしたらいい?学校にばれたらどうなる?どうしたら…焦って言葉が出ない。
「そいつの声ケイに似てるだろ?」
その声が聞こえて振り返る。
「…猪狩」
そこには猪狩がいた。
「そいつもケイの大ファンで聞いてたら歌い方も似てきたんだよなあ~なっ!」
そのまま合わせろとでもいうようにアイコンタクトをしてくる猪狩。
「……うん」
頷く俺の姿に少し焦ったように女生徒は言葉を発する。
「あ!ごめんなさい!凄く似てたので本人かと!すみません…」
そう言って女生徒は屋上から小走りで出て行った。
屋上には俺と猪狩の二人。
「……」
「……」
気まづい雰囲気が漂う。
「あのさ…」
初めに口を開いたのは猪狩だった。
「俺何かした?俺ばかだから考えてもわかんなくて…」
不安そうな猪狩の声。
いつも以上に小さく見える猪狩。
「何かしたなら謝りたい…教えてほしい、ごめん」
「違う…猪狩は悪くない…悪いのは俺」
「?」
何を話したらいい?どうしたらいい?
俺は猪狩に何を伝えたらいい?


