莇が遠くなった気がする。
あの日から莇は忙しくなった。今まで以上に曲作りに没頭して放課後もあまり屋上にくることもなくなった。
ネットで莇の曲はどんどん人気になって顔出しはしていないものの心地良い綺麗な声もあってファンはどんどん増えている。
幸い学校では気づかれていないがクラスメイトの女子が新曲が出たらよく話題にしているのを聞く。
(なんかどんどん離れていく)
そんな気持ちなる。遠くにいくような…そんな気分。
別に変っていないのに…何かが変わったような、置いて行かれるようなそんな気持ち。
そんなことを考えていると目の前に莇の姿が見えた。耳には有線のイヤホンをして携帯見ながら歩いている。
(新しい曲作ってんのかな)
イヤホンをしながら歩いている時は大体今作っている曲を聞いていたりする。
するとバチっと莇と目が合った。俺は咄嗟に片手を上げて手を振る。
「…ぁ」
だが莇はバツが悪そうに目を逸らして去って行った。
あの時の違和感は勘違いじゃなかった。確信した。俺は莇に避けられている。
ズキッ
(心が痛い)
去るもの追わず…昔からそうだった。
人と話すのが好きで今までの人生誰かを嫌いと思ったことはない。
クラスで浮いている奴がいても俺に対して何もしてこない以上そいつと普通に接していた。
クラスで浮いていても案外話すと普通で俺と何も変わらない。何を思って他の奴らはこいつを省いているのかわからない。
俺は誰とでも話すし誰とでも仲良く出来る。それが特技でもあった。
でも合わない奴というのはいるものでそういう奴に限っては去るもの追わず…だった。
だから今のこの感情は何なのだろう…。莇にあからさまに避けられて、いつもの事といえばいつもの事なのに…。
気持ちが…感情が…落ちてしょうがない。
気分が落ちる…憂鬱になる。
(なんかちょっと…)
「辛い、かも」