その日も屋上にいた。
猪狩の事が頭にちらつきながら青い空を眺めていた。
こういう時に限って次から次へと新しいメロディーが沸いてくる。
俺はそのメロディーを無意識で口ずさんでいた。
ピコンッ
その時、携帯がなった。
俺はポケットから携帯を取り出しメールを確認する。
登録していないメールアドレス…俺は疑問に思いながらメールを開く。
そこにはあるレコード会社からのメールだった。
(芸能…?)
メールを読み進めていくと、ネットにアップされている俺の曲を聞きぜひスカウトしたい、良ければ会わないかとの事だった。
「……うそ、」
手が震えた。別に歌手になりたいわけでもなかった。ただ歌が溢れて…せっかくならネットにアップでもしてみようという感じで始めた。
(こうやって声がかかると嬉しいものだな)
「え!!!!お前!それ有名なレコード会社じゃん!!!」
後ろから声がし、びっくりして振り返る。
「猪狩!!」
「ごめん、後ろから…何?そのメール?スカウト?」
「……そう、なのかな」
「そりゃ、そうなるよなあ~」
「…え?」
俺が疑問に思っていると猪狩は自分の携帯でネットを開き俺に画面を見せてきた。
「ほら、お前が昨日アップした曲」
「…ん?」
そういうと猪狩はここ!という風に指を指す。そこには再生回数が表示されていた。
「…2万、回?」
「そう!2万回再生!すげえよなあ~!いや~本当にいい曲だし、俺すげえ好きだ!」
「………」
猪狩の好きという言葉に反応してしまう。
ていうか2万回…?
「2万回!?なんで!」
今までよく再生されても1万回再生だった。
今日の朝、アップされて2万回再生されるものなのか?
「なんか有名なインフルエンサーがライブ配信でお前の歌紹介したらしいぜ!」
「…それでもでしょ」
「なっ!すげえよな!有名インフルエンサーの力ってすげえ!」
猪狩は目を輝かせて話す。すげえ!すげえ!言う猪狩をよそに俺はネットは怖いと思った。
「んで?そのメール返信すんの?」
「…んー」
「まあ、話だけでも聞いてみたら?お前の歌好きだからファンが増えるの嬉しいし」
そう言って笑う猪狩の笑顔が眩しかった。その言葉に後押しされた俺は連絡を返した。
そこからあっという間だった。
曲が出来たらネットにアップして登録者数も再生数も飛躍的に伸びていった。
音楽チャートにもランクインするようになっていった。
放課後も忙しくなり気づいたら猪狩と過ごす時間も少なくなっていて…。
でもそれが俺には好都合だった。猪狩の気持ちにこれ以上気づかなくて済むから…。
俺は音楽に逃げた。


