(あざみ)(あざみ)!」

朝から騒がしい声が俺を呼ぶ。

「お前の新曲!なにこれ!超いいじゃん!」

朝から元気な猪狩(いがり)。朝の7時に公開設定した曲は設定通りに公開されたようだ。
昨日あんなに音が鳴り止まない事に久しぶりに高揚したのに曲を公開したことを少し後悔する自分がいる。

「…あ、ありがとう」
「でもこれさ、屋上で歌ってた新しい曲と違うよな?」
「…あぁ、まあ、新しい曲思いついちゃって」
「え、なに?お前もしかして徹夜した?」

猪狩(いがり)は俺の顔をじーっと見つめる。思ったより近い位置にある猪狩(いがり)の顔。
心配そうに見つめる顔が少し可愛いとすら思ってしまう。

(可愛い?)

咄嗟にそう思ってしまった自分が怖くなった。俺はまた同じ過ちを犯してしまうかもしれない…そう感じゾッとした俺は心配する猪狩(いがり)と距離を取った。これ以上距離を縮めてはいけない。

「…うん、でも大丈夫」
「?」
「……」
「そか、ならいいけど…」

そして俺はその場を去った。せっかく猪狩(いがり)が褒めてくれたのに素っ気ない態度をしてしまった。
その態度にすぐ後悔した。早くなる足…心の中はもやもやして昔のことを嫌でも思い出す。
思い出したくないのに…気づいたら俺は教室ではなく屋上にいた。
曇りのない青い空…俺の心とは真逆の透き通る青い空。








3年前


自分が人とは違うと気づいたのは幼少期の頃だった。
女の子は可愛らしいものが好き、男の子はかっこいいものが好き、女は男を好きになる、男は女を好きになる。
それがこの世界での普通だった。
俺は男だけど可愛いものに惹かれた。ピンクとかフリルとか、姉がいたのもあったのかもしれない。
だからと言って女になりたいとは思ったことはない。俺は俺だし、男であることに違和感を感じたこともない。
だけど初めて好きだと思った人は男だった。14歳の頃だ。
同じクラスの仲のいい同級生。俺は何を血迷ったのか告白をしてしまった。というかポロっと言ってしまった。
その言葉を聞いた彼の顔を俺は今でもしっかり思い出せる。嫌悪感に満ちた顔。
そして言われた言葉は

『気持ち悪い…お前気持ち悪いんだよ!』
『……』
『お前そんな事思ってずっと俺と一緒にいたの?嘘だろ…なに?お前ゲイってやつ?』
『……』
『友達だと思ってたのに…無理だわ…今後近寄らないで』

ショックだった。恋が実るなんてこれっぽちも思ってなかったけどこんなに拒否されるなんてことも思っていなかった。自惚れていた。同性に好意を持たれる気持ち悪さを理解していなかった。
俺はその日以来学校に行けなくなった。結局卒業まで一度も学校には行けなった。

いつかまた誰かを好きになるかもしれない。
その時は絶対に悟られないように少しでも自分の気持ちに気づいたらその人から離れようそう決めた。

屋上から見える青い空。遠くどこまでも続いている。その綺麗さに俺は何だか胸が締め付けられた。
今まで何度も異性を好きになろうとした…でも好きになれなかった。好きになろうとしてなるものじゃないということはわかった。
『気づいたら好きになっていた』とよく聞くけどそれは本当なんだと思う。
今の俺がそうだ。猪狩(いがり)といると心が安らぐ、猪狩(いがり)が笑うと俺まで嬉しくなる。

俺は猪狩(いがり)の事が好きなんだ。