「もういい!」
「紡!」
「紡くん!」
両親に怒鳴り、僕は病院を飛び出した。
明日は僕にとって何よりも大切な日だったんだ。

小学5年生の僕には生まれたての妹がいる。このしわくちゃの妹は何やら体が弱いらしく、妹の両親はつきっきりだった。僕の『ママ』は僕が小学1年生になる頃に死んでしまった。この妹はパパと再婚した『絵美さん』の赤ちゃんだ。絵美さんのことは大好きだ。
「ゆっくりでいいから。紡くんの家族になってもいいですか?」
絵美さんは一年前に僕にそう言った。絵美さんは会う前からいい人だった。パパが、仕事が大変なのに僕の参観日に来てくれたとき、絵美さんが仕事を変わってくれたらしい。料理が苦手なパパでも簡単に作れるレシピを教えてくれたのは絵美さんだ。初めて会ったとき、僕とずっと一緒に絵を描いてくれた。パパが忙しいときに僕の晩御飯を作りに来てくれたこともある。パパにも秘密の話を絵美さんとしたことがある。そんな絵美さんだから僕は家族になってくれるのが、うれしかった。

病院の近くの図書館に駆け込む。司書さんはどこかに行ってるようで、走って図書館の奥に行っても怒る人はいなかった。背負っていたランドセルから紙を出す。出した紙は作文用紙で『僕の家族』と書いていた。僕が明日読む予定の作文だ。明日の、参観日で。
ポロリと頬の上を熱いものが転がる。それは僕の顔を伝って作文用紙を濡らした。明日の参観日、本当ならパパも絵美さんも来る予定だった。妹が入院するから2人はそれにつきっきりになって来れなくなったのだ。ぐしぐしを顔を擦る。悔しい。あんな寝てるだけの妹に大好きな2人を取られたのが悔しい。僕はパパにも絵美さんにも伝えたいことがいっぱいあるのに。
「僕が、もっと大人になれたら…こんなこと思わなくて良かったのかな…優しいお兄ちゃんになれたのかな。」
クシャリと作文用紙をランドセルに戻した。ティッシュを持ってなくてハンカチで鼻を拭く。さて、飛び出してきたもののどうしようか。まだ帰る気になれない。本でも読んで時間を潰すか。顔を上げると窓から光が入ってきた。
「ん?」
夕焼けじみた光が一冊の本を照らしている。それはキラキラと光り、吸い寄せられるように僕は近づいた。
「よっ、と」
僕の身長ではギリギリだ。少しだけ本に指をかけ、引っ張る。
『バサバサバサッ…』
「わっ…」
思わず目を閉じた。本が何冊か落ちてくる。音がやみ、ゆっくり目を開くと色んな本が落ちてる中に、真っ黒のページが開いた本があった。
「黒い…紙…?」
塗りつぶされたわけじゃない。初めから黒い紙で作られているようだ。手を伸ばす。ページに触れた瞬間にズブリと手が沈んだ。
「⁉︎」
ページから手を引き抜こうとするも抜けない。
「え…⁉︎誰か、助けて…‼︎」
どんどん沈んでいく。ついに少年は本の中に落ちてしまった。

誰もいない図書館。広がるは先ほどまで真っ黒だったはずの本の真っ白なページ。誰もインクを落としていないページに文字が浮かび上がる。
『|go down the rabbit hole《そして物語は始まった》』

「うわぁぁぁあ〜!?」
終わらない暗闇の中で僕の声が響く。上下も分からないのに落ちていく、と言う感覚だけがある。僕はまるで穴に落ちたアリスのようだ。もうどれくらい落ちているのか分からない。目が乾き、思わず目を閉じた。そこからの記憶はない。

チチチ…鳥のさえずりが聞こえる。
「う、ん…?」
深い穴を落ち続けている間に寝てしまったようだ。気絶した、とも言える。僕はゆっくり目を開けた。光が目に差し込む。
「森…?」
そこは自然あふれる森だった。ガバリと体を起こす。
「え⁉︎森‼︎…いやいやいや、これは流石におかしいって‼︎」
とりあえず立ち上がる。
「と、とりあえず…水飲みたい。声もおかしくなっちゃってる…。」
穴に落ちている間、悲鳴をあげていたせいで喉がカラカラだ。耳を澄ますと水の流れる音がする。音の方へ行くと泉があった。水面が光でキラキラ反射する。
「…綺麗…」
僕は吸い込まれるように泉に近づき、泉に映る自分を見た。
「⁉︎」
顔を触る。自分の顔が、手が違う…いや、違うというよりも…。
「大きくなってる⁉︎」
小学生だったはずの僕がまるで高校生のようだ。背は伸び、少し声が低い。手も大人の男性のようながっしりした手だ。
「な、なん…?」
『なんで?』そう言いかけたときに、後ろに気配を感じる。
「グルルル…」
「えっ⁉︎犬…いや、これは…‼︎」
「ガゥッ‼︎」
「狼⁉︎」
僕は尻餅をついた。目の前に狼がいる。動物園でもほとんど見ないソレは、獲物を見つけたようにランランと目を光らせていた。
「ガルルルッ‼︎」
「わぁぁっ‼︎」
狼は僕をめがけて飛びかかる。目を瞑る。訳もわからず知らない世界で知らない姿になって狼に襲われるなんて…。
「なんなんだよ…‼︎」
つぶやいた、瞬間。何かにひっぱられた。

「こっち‼︎」

目を開くと間一髪、狼は僕が引っ張られる前の場所に鋭い爪を突き立てていた。引っ張ってくれた人を振り返ろうとする。
「ありがと…うっ⁉︎」
「走って‼︎」
手を強く引っ張られ、無理矢理立ち上がらせられる。そのまま僕の手をとる人は走り出した。引っ張られるままに走りながら、その人を見る。今の僕と同い年くらいの少女だ。僕より小さく柔らかな手、真っ白な髪を少し高めの位置で2つにくくっている。ツインテールってやつだ。中世ヨーロッパを思わせるようなワンピースは原宿で見るロリータ服っぽい。ただ、ところどころ汚れているようだ。
「っはぁ…!あの…」
走り続け、息切れしながらも話しかける。
「まだ追いかけてきてる!」
少女が言った。後ろを見ると少し遠めに狼が見えた。相手は動物。引っ張っ手くれている少女の足が速いとはいえ、すぐに僕たちに追いつきそうだ。ぐんぐん距離は縮まっていく。
「だめだ、追いつかれる!」
僕が叫ぶと少女が僕の手を強く握った。
「こうなったら…!」
少女が懐中時計を取り出す。
「おい!時間見てる場合じゃないだろ!」
懐中時計が光る。僕を無視して少女は口を開いた。
『あぁ、急げ急げ、早く行かなくては―――“I'm late(大変だ 遅れる)”!』
少女がそう言った瞬間、グンッと強く手を引かれた。
「えぇぇぇ⁉︎」
少女の足が急に速くなった。これまでも速かったのだけど。それとは比べ物にならないスピード。僕も引っ張られるままに足を動かすけど、もう浮いてるんじゃない?まるで漫画のようだ。たちまち狼は小さくなり、見えなくなった。

―――

「やっと撒いた…大丈夫?」
少女の声に頷きながら僕は地面を見ていた。パタパタと汗が地面に落ちる。
「はぁ…ありがとう…さっきのって…」
僕は顔をあげた。僕の時間が止まり、言葉を失う。
「ん?」
少女は首を傾げた。走ってる時も揺れていた真っ白のツインテール。髪と同じように白い肌。そして、ルビーのような真っ赤な瞳。異質に思えるその赤は丸みがあり幼い。僕をじっと見つめるその姿は…まるで。
「白ウサギ…」
「ん?」
つぶやいた僕を覗き込む少女。不思議そうな少女の顔を見ると、どこか懐かしさがあり、でも落ち着かなかった。
「あ、いや…珍しいね…その…全体的な雰囲気が?」
ホワイトヘアにカラコン?それとも体質的な…アルビノかもしれない。言葉を選びながら言うと少女がケラケラ笑った。
「そう?お兄さんの真っ黒の髪も珍しいと思うけど。」
「え?日本人ならこんなもんでしょ?」
「ニホンジン?どこの国のこと?」
少女がキョトンとした。もしかして、ここは僕の知る世界ではないのか?ここに着くまでのことを思い出す。僕は本に手を伸ばして…吸い込まれた。
「ということは…ここは本の世界?」
「わわわ⁉︎」
「…むぐっ⁉︎」
僕のつぶやきを聞いた少女が、焦って僕の口を押さえた。
「お兄さん!どこの人か知らないけど、その言葉はダメ!」
「え?」
少女はキョロキョロと周りに人がいないことを確認して、小声で僕の耳にささやく。
「この国は非本法って言って、本が禁止されてるの。文字を読むことも書くことも法に抵触するのよ。だからあんまり大きい声で本の話をするのはやめた方がいいよ。」
「えっ、なんで?銃とか刀とかじゃなくて?」
「想像力は何よりも強い力だからよ。だから想像力を高めてしまう『本を読む』『本を書く』ということを市民は禁止されてるわ。」
「そうなんだ…」
僕が衝撃を受けていると少女が話を続けた。
「お兄さん、本当に何も知らないのね。異国の人?」
「異世界って信じる…?」
「…!信じる!」
少女が顔を輝かせ、僕の手を取った。
「わたし、きっと異世界に大切な人がいるの!」
「え?」
「お兄さん、名前は?」
「あ…ツムギ…。」
「ツムギね!わたしの名前はコトハだよ!」
「コトハ。…あ、えと助けてくれてありがとう。」
「どういたしまして!ツムギ、わたしがこの国を紹介するよ!」
取った手をそのまま繋ぎかえて、コトハが歩き出した。高校生くらいの大きさの僕と同い年くらいに見えるコトハは見た目よりなんとなく幼く感じた。

―――

「この国はワードシェルフ。ここは王都から離れた町のサーテン。わたしもここに住んでるの!」
「へぇ〜。」
森から出ると近くには町があった。首都から離れているらしいけどそこそこ栄えている。少しヨーロピアンな町並みがここは日本ではないことを実感させる。
「ここはわたしのお家!」
コトハが止まる。
「うぉ…でっけぇ…」
目の前の大きい屋敷を見る。
「あっ、違う違う。こっち。」
コトハが指を指す。
「は?このお屋敷の小屋だろ、それ。」
「そうだよ?」
「…」
「…?」
僕が黙り込むとコトハは不思議そうに首を傾げた。
「どこに行ってたのよ、コトハ!あんた、どこかで寝こけてたんじゃないでしょうね⁉︎部屋に飾る花を見つけてきたの⁉︎」
急に聞こえた甲高い声にビクリ!と飛び跳ねる僕とコトハ。
「オトお嬢様…」
コトハがつぶやいた。声の方を見るとドレスのような服に身を包んだ女性がいた。歳は僕とコトハと同じくらい。輝くような金髪に映える、赤・青・緑の花の髪飾り。薔薇色の頬。美しいけど、コトハを睨む目には棘がある。
「あんた、いつもすぐ居眠りするのに雇ってあげてるのよ⁉︎仕事くらいちゃんとこなしなさいよね‼︎」
「すっ、すみません!」
コトハが頭を下げる。僕はコトハの前に立った。
「僕が狼に追いかけられているのを助けてもらったんだ。だからサボったわけじゃないよ。」
そういうと、オトと言われた少女は僕をジロジロと見る。
「仕事もせずに男を連れて帰ったわけ?ほんと役立たず。パパもママも森は危険なところだからコトハに行かせなさいって言ってたけど、こんなグズが行っても大丈夫なんだから危険なはずないわ。」
「なっ…」
危険だからコトハに行かせる。その一言でコトハがどう扱われているかを察した。コトハなら危険な目にあってもいと思って森に行かせてるなんて。
「お前!何言ってるか分かってんのか!」
僕が言うと、フンとオトは、顔を逸らした。
「なに?コトハを庇ってるの?そんな親なしの貧乏人庇ったっていいことないわよ。髪は真っ白だし、目は真っ赤。その上、危険と言われる森に行っても怪我一つしない。不気味よね、化け物なんじゃないの?」
コトハが唇を震わせながら口をつぐむ。勇気を出して僕を狼から助けただろうコトハがそこまで言われて黙ってはいられなかった。
「親がいるってそんなに偉い?親がいない人間が必死に生きていることさえ分からないやつの方が問題あると思うけど。」
「はぁ?」
オトが僕を睨む。
「それにコトハは不気味なんかじゃない。可愛くて勇気のある女の子だよ。」
「ツムギ…。」
コトハが僕の名前を小さく呼ぶ。
「なによ!もういい!アタシが自分で森に行って、コトハが役立たずって証明してやるわよ!」
「オトお嬢様⁉︎」
オトが走っていった。追いかけようとするコトハの手を掴んでとめる。
「やめとけって。なんだよ、あいつ。知り合いなんだよな?」
「オトお嬢様は、わたしをおいてくれているお屋敷の主人の末の娘なの。」
「だから、あんなわがままなんだ。」
「みんなからはわがままに見えるかもしれない…でも、でも!」
コトハは僕の手を払った。
「やっぱり、オトお嬢様のとこに行ってくる!」
コトハは森の方に走っていった。

―――

「ツムギ、ついてきてくれたの?」
「いや、僕行くとこないんだって…」
結局、僕はコトハを追いかけて、森に来ていた。
「オトお嬢様は不眠症なの。夢見が悪いらしくって…。眠りにつくのが怖くて怖くて仕方ない人なの。森にある花を部屋に飾って眠るときだけは何も夢を見ずに眠れる。」
「その花になんか力があるってこと?」
「分からない…。」
少し沈黙が続く。コトハがポツリポツリと話し出した。
「オトお嬢様は睡眠不足や不安で心が弱っているの。」
「だからってコトハにあんなに言うことないだろ。」
「わたし、昔から急に眠気がきて寝ちゃうことが多くてね?親がいないから働かなきゃ生きていけないのに全然仕事がなくて。この見た目もあるんだけど。」
コトハが自分の髪をつまむ。
「でも、オトお嬢様が拾ってくれた。それで少しでも喜んで欲しくて花を摘んで渡してみたら、悪夢を見ずに寝れたらしくって。それに気づいたオトお嬢様のお父様とお母様が花が枯れるたびに森に摘みに行くという仕事をくれたのよ。」
「でも危ないんだろ。」
「わたしはこれがあるから。」
チャリ、と懐中時計を出す。森でのコトハを思い出した。
「そうだ!それ、何?足が速くなったよね?」
「わたしもよく分からないんだけど……想像力は強い力って話したよね?」
こくりと僕が頷く。
「この国には不思議な力があるらしいの。『物語の奇跡』っていって、本に書かれていたことを想像して一節を唱えると不思議なことがおこる。そしてその力はとある道具で引き出される。」
「それで足が速くなったの?」
「うん。昔からなぜかあの言葉だけは知っていて、でも何の本か、どこで知ったのかも分からない…。この懐中時計だって物心ついたときから首にかけてたし。早く走るという想像が出来るだけ。」
少し寂しそうにコトハが笑った。
「魔法みたいなものかぁ…」
「この国では『物語の奇跡』を発動する鍵になる道具…わたしの懐中時計のようなものを『チャームド』っていうの。『チャームド』自体かなり貴重なものなんだけど、それが使える人間はこの辺りではほとんどいないんだって。王都なら警備隊とかには、いるらしいんだけど。」
「ふぅん。」
足が速くなるなんて、元の世界ならリレーの時にでも使いたい魔法だな。
「キャア‼︎」
「「‼︎」」
オトの悲鳴が聞こえた。2人で走る。声の聞こえた方に着くと、オトが座り込んでいる。オトの目線の先には人を丸呑みしそうな蛇。
「シャァ!」
蛇がオトに噛みつこうとした。
「オトお嬢様‼︎」
コトハがオトを抱き込むようにして転がる。
「コトハ!」
2人を狙う蛇。僕は咄嗟に蛇に石を投げた。
「こっちだ‼︎」
「ツムギ⁉︎」
僕が走ると蛇は追いかけてきた。何か投げれるものはないかポケットを触る。すると胸ポケットに固さがあった。
「これ…僕の万年筆!」
絵美さんからの誕生日プレゼント。小学生にはまだ早いよ、なんてパパが笑っていた。まだインクを入れずに持っていた大切な宝物だ。唯一、この世界に持ってこれたらしいその万年筆を握る。万年筆が光る。
「これって…『チャームド』?」
僕は考える。例えるなら『物語の奇跡』は魔法だ。『チャームド』は魔法の杖。『想像力』はいわゆる魔力。
僕はコトハの言葉を思い出した。『想像力は何よりも強い力―――』
目を閉じる。想像するんだ。蛇を倒す様子を。ふと思い出したのは大蛇を倒す物語。
「これでいけるのかな…もう、どうにでもなれ!」
息を吸い込む。
『この娘を、私の妻に。さすれば大蛇を倒してみせよう―――“我が名はスサノオ“!』
ずしんと万年筆が重くなる。手元を見れば万年筆は刀になっていた。さっきまで自分とは違う感覚。僕はヤマタノオロチを倒した英雄だ。ブンッと刀を振るうと大蛇に当たった。
「シャァァァア‼︎」
痛みに苦しみながら襲いかかってくる大蛇。それをものともせず僕はもう一度、刀を振った。その刀は大蛇の首を落とす。
「…やった?」
僕が刀から手を離すと刀は小さくなり、万年筆に戻った。
「すごいよ!ツムギ‼︎」
コトハがオトを支えながら追いかけてくる。
「オトは⁉︎」
「腰を抜かしてるだけよ…。」
オトが力なく僕に返事をした。
「あなた…『物語の奇跡』を使ったの?」
オトは僕をじっと見た。コトハが頷く。
「オトお嬢様に話します。わたしの力と、ツムギのこと。」
コトハはオトに『物語の奇跡』を使えることを話したことがなかったらしい。だからコトハはコトハの力のことを。そして、僕はこの世界に来るまでに起きたこと、僕の世界のことを話した。

僕は真っ黒の本に落ちて、この世界に来たこと。
僕の世界では『物語の奇跡』はないこと。
僕の持つ『チャームド』は僕が元の世界から唯一持ってきたものであること。

「そういうこと…。だからコトハはいつも無事に森から帰ってきてたのね…。」
「秘密にしててごめんなさい。オトお嬢様。」
「いえ…アタシが悪いの。コトハが危険をおかしてまで森に行ってくれてたのに。」
ポロポロと涙を流すオト。少し沈黙の時間が続いた。コトハが沈黙を破る。
「ツムギ、エバーに行こう。」
「エバー?」
僕が繰り返すとコトハが頷く。
「この国の王都だよ。そこなら『物語の奇跡』について詳しい人がいるかもしれない。ツムギが元の世界に戻れるヒントがあるかも。王都がこの国で唯一『本』がある場所だし。…なので、今日限りでオトお嬢様のお家からは出て行きます。お世話になりました。」
コトハが少し寂しそうに笑った。
「…コトハ。…いえ、アタシも連れて行って。これでも貴族の端くれ。王都に入るのには身分を証明する必要があるわ。アタシがいれば王都に入りやすいはず。これまでのお礼と償いをさせて。」
オトが言った。僕とコトハはお互いに目を見た。そしてコクリと頷いた。

僕とコトハとオト。異世界での、僕が紡ぐ物語が始まった。