陽向のぬくもりに揺れて


放課後。
西日に照らされた教室はじんわりとした熱を帯び、窓の外では蝉の声が途切れることなく響いている。

風が吹けばカーテンがふわりと揺れるけれど、熱気はまだこもったまま。

机に乗せた腕がじんわりと汗ばみ、そっと離すと肌がくっつくような感触がした。

遠くに見える空は茜色に染まり始め、帰り道を急ぐ気にもなれず、ただぼんやりと眺めていた。

「蒼、一緒に帰ろうぜ」

「あ、あぁ、帰るか」

帰り道、陽が沈みかけた空がオレンジ色に染まる中、蒼は歩きながらふと思い出すように呟いた。

「もうすぐ夏休みか…」

その蒼の声はどこか寂しそうな表情をして日が沈みそうな空を眺めていた。

「なにか予定あんの?蒼」

「家庭教師が家に来るぐらいで、あとは特に決めてない。でも、まあ、何か面白いことがあったらいいな」

夕日が沈み、空が暗くなり始め、1日を終えようとする。

「オレといたら楽しいよきっと、遊ぼうぜ」

そんな言葉を待っていたのかもしれない。

喜びの舞でも踊りそうだ。

陽向となら、なんでも出来る気がした。

「俺、お母さんに言ってみるよ。声優になる夢を見つけたこと。だから、陽向付いてきてくれないか?」

「全然行くよ!オレにできることがあるなら!」

「ありがとう」

陽向となら、乗り越えられる気がする。

お母さんに夢を見つけたこと、どう思われるかな。

「ただいま帰りました」

「お邪魔します」

「友達を連れてくるなんて珍しい、初めてね。昨日お泊まりしてきた子かしら」

「はい!でも、友達ではなく、恋人です」

「あ、蒼??それ……」

「な、なにいってるの?おかしくなっちゃったの?」

母は混乱していた。

「もう一度言いますが彼は友達ではなく、恋人です。大切な、大切な、俺の可愛い恋人です」

「男同士なこと分かってるの?」

「分かっています。それでも彼が、陽向が、俺に心の温かさを教えてくれて、ぬくもりを与えてくれたんです。そしてもうひとつ、お母さんに言わなければいけないことがあります」

「今度は何よ」

「大学にはいけないです、夢を見つけました。声優というお仕事です。育成学校に行きたいです」

「いい大学に行って欲しいとここまで道を敷いてきたのに、それを簡単にぶちまけようとするのね」

「今まで両親に支えられてきて、沢山のものを与えてもらい、出来ることを増やしてきました。勉強がここまで出来るようになったのも、そのおかげだと思います。プレッシャーもありました。でも、初めて夢を持つことが出来ました、それは陽向と話すようになってからです」

「本気なようね。夢を持つことなんて今まで無かったのに。敷かれたレールの上だけを歩かせてたけど、ついに自分で道を切り開いて進めるようになったのね。その恋人さんも、蒼を支えてくれてるのね。わかったわ。夢を追いかけなさい、親が子供のやりたいことを反対して誰が味方になるんですか、これからはやりたいことに進みなさい、自分で決めたからにはきちんとやりきるのよ」


「はい、ありがとうございます。お母さん、少し自分の部屋で二人で話してきてもいいですか?」

許可を貰った瞬間、握り拳に力が入った。

「えぇ、好きにしなさい」

自分の部屋に移動し、2人で喜びを感じた。

「蒼、よかったな!やっぱり言ったじゃん!言ってみないとわかんないって」

「あ、あぁ、こんなあっさり許可をくれるものだと思ってなかった。猛反対されるのかと思ってた」

「やりたいことが見つかったなら親なら応援してくれるって、言っただろ?その通りだったじゃん、味方でいてくれるよ、親の愛だよ」

「陽向、ありがとう」

俺は陽向をぎゅっと抱きしめた。

「おれのことも言っちゃって良かったのか?ほら、一時的な関係かもしれないし」

「そんなふうに思ってたのか?俺は手放すつもりないけど?こんな可愛いのに。また愛のしるし付けてあげようか」

「や、やめろって!!」

「俺だけの陽向でいて、俺を照らす光になって」

「蒼の傍にずっといるよ、オレ、蒼と出会えてよかった、こんなことならもっと早くに話しかけてればよかった。意外な一面も見れたし、独占欲強いけど、オレにはそれが嬉しい」

「俺も、陽向の笑顔が大好きで、陽向を近くに感じると、心が暖かくなるんだ。ずっと傍にいたい、一生手放さないから」

「んっ………ん……」

陽向の漏れる声は、愛おしく、身体を熱くさせた。

そしてまた、蒼はキスをしたあと、もう一度陽向を抱きしめた。

陽向を傍に感じ取るように。

優しく、自分だけの、大切な恋人を。

陽向のぬくもりに揺れて。