放課後

1度家に帰り、母に泊まることを伝える。

「お母さん、今日友達の家にお泊まりしてきてもいいでしょうか」

「お友達でもできたの?初めてね、こういうの。危ない人じゃないでしょうね」

「そんな人ではありません。とても笑顔で語り掛けてくれるような優しい友達です」

一番納得出来る説明だと思った。

「あらそう、明日は帰ってくるのよ。お父さんには言っておくわ」

「はい、そうします。よろしくお願いします」

「これ持っていきなさい、ちゃんとご家族の方に挨拶するのよ」



陽向に大丈夫だったことをメールで伝え、着替えと明日の教科書を持って、準備を終えてから家を出た。

急いで駅前に行くと、もう既に陽向は待っていた。

「ごめん、遅れて」

「全然今来たとこ!それより、親大丈夫だった?厳しいって言ってたけど」

「大丈夫じゃなかったらここに来てないな」

「ならよかった、安心して泊まれるね。早速ですが買い物に行こうー!お菓子とジュースがないとね、アニメのお供に!」

「いまから買い出し!?お菓子も食べるのか」

「アニメ見る時のお約束だよ」

「そうなのか…人それぞれな気もするけど」

「じゃあいくよー!しゅっぱーつ!」

子供っぽい陽向の言動に、ほんとに大丈夫なのかと不安になるが、興味を持った蒼は陽向について行くのに必死だった。


「平気?ついてこれてる?」

優しい陽向は、気にかけてくれていた。

スーパーについて、ポテトチップスとポテりこと、コーラと次々にカゴに入るものを見て、こんなに買うのかと驚いた。

「そんな驚いた顔しなくても2人分だからね?それにしてもスーバーの中は涼しくていいね、今暑いから助かる」

「そ、そうだな。夏って暑さを感じすぎると限界があるからな」

「じゃ、早速家に帰ってお風呂入ってご飯食べて、備えよーう!」

「ご飯食べたらアニメの前に数学の課題な、今日のやらないと」

「あー、そうだったっけ。また忘れるとこだった、まじ蒼感謝」



そんなことを話しながら陽向の家まで移動した。


「母ちゃんただいまー、あがってあがって」

「お邪魔します。陽向のお母さん、これ、お口に合うと良いのですが…」

そう言って紙袋から菓子折りをだすと、陽向のお母さんに渡した。

「まぁ、よく出来た子ね」

「いえ、きちんと挨拶するように教えられてきましたので」

「陽向も見習ってここまで出来たらいいんだけど、まぁその代わり優しい子に育ったから私としては十分なんだけどね」

「自分も優しさを受けました。陽向の笑顔に惹かれるものがあると思います」

「そう言って貰えて嬉しいわ、ゆっくりしてってちょうだい」

お風呂に入りご飯を食べ、課題を済まし、クーラーの効いた部屋で毛布を被って、陽向は座っていた。

「クーラーの効いた部屋でお菓子食べながら毛布被って見るアニメは最高じゃない?」

見始めたアニメは、イラストが人のように動いて、喋っていた。

「これ、どうやって作られてるの?」

「え?そりゃあ、イラスト書く人と、声が仕事の声優さんがそのイラストに合わせてセリフを喋って、みたいな?」

「イラストに合わせて喋る仕事があるのを初めて知った」

素敵だと思った。

難しいだろうと思うが、その職業に憧れを持った。

「俺も、なりたい声優に」

「育成学校とかあるらしいよ?専門の」

「でも、行く大学が既に決められてるんだ。両親の敷かれた道だけを今まで歩んできたから、きっと反対される」

「言ってみないとわかんないじゃん」

「絶対無理だ」

「決めつけて、言わずに可能性を捨てるなんてもったいないよ。やりたいことが見つかったなら親なら応援してくれるよ」

「少し考えてみる」


「そっか。じゃあさ、このアニメの後、恋愛アニメ始まるんだ。付き合いたてで、初々しくて可愛いんだよなー。見ようぜ」

「あ、あぁ、でももう眠くないか…俺は結構限界に近い…もう2時半だぞ」

「これみたら寝よう!」

そう言って恋愛もののアニメを見始めた。


なのに、あれ、?目が開かない。

どうして、陽向が隣に。

お泊まり、恋愛もののアニメ。

陽向ってまつげ長いんだな。

隣にいる陽向を見つめていたら身体が暑くなってきた。

「蒼?おーい、蒼」

「ん、あ…ごめん、眠くて」

目を覚ますと陽向に寄りかかって、俺は寝ていた。

時刻は3時だった。

なんだか変な気分になったことだけはしっかりと覚えてる。

でもその後ポカポカして寝ちゃって。

なんだか人の家で寝るって変な感じだ。

「グーグー寝てる蒼、可愛かった」

「っはぁ?」

一気に目が覚めた。

「そういう、陽向だって、お風呂上がってノーセットだと可愛い女の子みたいだぞ」

「そんなことない!!」

「うるさい口だな」

「んっ…んんっ…!」

気がつけば俺は陽向にキスをしていた。

俺は何をしている?

全部夜中に恋愛物のストーリーを見たせいだ。

お泊まりなんてするからだ。

可愛い陽向がいけないんだ。

「可愛い陽向」

「か、かわいくなんてねーし。ほら、もう寝るぞ!狭いベットしかなくて悪いな」

「イタズラしていいってこと?」

「ちょっと待って、蒼ってそっち系なの!?オレも、嫌じゃないけど…」

「自分のことが一番分からないけど、可愛い陽向見てたらいじめたくなってきた」

「大人しく今日は寝てくんない?絶対起きた時ショック受けるってば」

「なんでだよ。俺たち付き合えばそれでハッピーエンドだろ」

「もしかして、今まで好きな子とかにもそうしてきた?だから友達いなかったとか」

「なんでそれを」

「やっぱりかー。相手がおれでよかったな。多めにみるから今日は寝よ。一緒に寝るから大人しくしてて」

「ん、…わかった。ディープキスしてくれたら寝る」

「な、何言ってんの。大人しく!!」

「困ってる陽向が一番可愛い、陽向の笑顔が好きなんだ、笑ってて」

「そんな急に言われても、眠いんだな。眠いとこうなるんだな蒼は。わかったよ、ほら…ちゅっ」

リップ音を立ててキスをした。

「足りない」
俺はもう一度キスをした。

「…んんっ…あおっ、…い…っ…」

あー、可愛くて仕方がない。

なんでこの可愛さに気付いちゃったんだろう。

白紙でノートを出さなければ、この縁なんてなかったのに。

陽向のことしか見えない。

陽向がいい、陽向しかいない。

可愛い。

ちょっと男にしては小柄の低身長で、まつ毛長くて、鼻筋も通ってて、目がキラキラしてて、ダボッと着ているパジャマでさえ全て可愛く見える。

「蒼、気が済んだ?蒼?さっきまでの勢いはどうしたんだよ、こんなすぐ寝ちゃって。可愛いのはどっちだよ…」

陽向はそっと優しく唇を重ねた。

布団をかけて陽向も寝ることにした。