黒龍王の縁結び師



*********



「なんで」

なんでこんなことに。

蘭花は頭を抱えていた。

「もうこちらに来て三日ですよ。諦めたらいかがですか、蘭花様」

お茶を白磁の器に注ぎながら令姿 (レイシ)が微笑む。
令姿は蘭花についている唯一の侍女で、歳は既に六十過ぎ。
小柄ながらも貴族の家にいただけはあってか、かくしゃくとしている。
蘭花の事情を知っている唯一の女性でもあった。

「わかっています」

お茶をすすりながら蘭花はため息をつきそうになってやめた。
いつも長い髪は邪魔なので適当にまとめていたが今は令姿の手で綺麗に結われ、石などはついていないながらも品の良い花の柄が彫られた銀の簪が挿してある。
服も仕事着のような黒い服ではなく、薄い桃色の着物。
襟や裾などには花の模様が刺繍で描かれていて、薄く織られた白色の肩掛けをかけている。

蘭花の今いる場所は後宮。
帝の花園。
そこに蘭花は事情も知らされず連れてこられた。
連れてきたのはあの時蘭花の店に来た男、清恭(セイキョウ)。

「諦めなさいませ、あなた様は既に陛下のものなのですから」
「建前であっても実質的にはそうですよねぇ。
ですがこんな場所にいる娘など誰も気にかけてはいないかと」
「既に城内では噂の的ですよ。
後宮の隅に陛下が隠された姫は誰なのか、と」
「そう、ですか・・・・・・」

誰も私のことなど気づいて欲しくないという蘭花の思いは、一つ一つ令姿が笑顔で消していく。

「ですが、陛下から直にお言葉を賜っていないというので、あまり気にしなくても良いのではという話もちらほらと」
「・・・・・・」

歯に衣着せぬ令姿の報告に、十六という年相応の可愛らしい服を着せられている蘭花は肩を落とした。