黒龍王の縁結び師



時折こういった無理難題を言う貴族もいる。
だがそれに応じてしまえば蘭花の実の安全が危うくなる。
貴族の屋敷で殺されそうになっても誰も助けてくれるわけもなく、死ねば道ばたにうち捨てられて終わりだ。
死体の転がる街で、小娘一人の死体が増えたとして誰も気に留めることは無い。
男は蘭花の沈黙で危惧しているであろうことを察して口にする。

「もちろん貴女の身の安全は保証します」
「いかがしてでしょう」
「我が主がそういうことを好まないので」

どんな保証の仕方だと蘭花はツッコみそうになった。

「蘭花さんのお家、家計がたいそう苦しそうで」

思わせぶりな男の声。
既に蘭花の家については調べてあるのだから、蘭花が借金を返すために縁結び師などという仕事をしていることくらい知っているのは当然だ。

「お父様は遠い町まで仕事に出ていて半年以上戻らないのでしょう?
でしたらその間、貴女が奉公に出ているとしても問題ないはずです。
それに正直、貴女であの方に良きお相手が見つけられるなど思っておりません。
縁結び師ですか?
それも本当かどうだか」

嘲るわけでもなく、淡々と話す男に蘭花自身もそうだろうなと思う。
だがそれが普通の反応だ。
蘭花の能力など、蘭花自信も完全にはわかっていない。
だからこそ。

「そう思われるのもごもっとも。
ですのでお引き取り願いますか?」

静かに蘭花が言うと、男は嫌な顔をするどころか美しい笑みを浮かべた。
一切優しさの感じない笑みに、蘭花は自然と椅子の背に身体を押しつけた。

「もう手段を問う時間が無いのですよ。
あの方には何が何でも、良きお相手と契っていただかなければ」