その夜。
内廷の一番奥にある場所で、男は束ねられた紙をあっという間に読んでは横に置いていく。
地方からの報告など多岐にわたり、もう一人の男はその読み終わった報告書を片付けていく。
最後の一つが終わり、男は肩に手を当て動かしてから、長い手を上に上げて背伸びをした。
部屋には高級なろうそくが惜しげも無く使われていて明るい。
柱は深い朱色、壁の上部は部屋をぐるりと装飾画が描かれている。
男の座る後ろには大きな龍が描かれ、周囲は金を使った花や雲などが描かれていた。
物を置くための棚の上には香炉が置かれ、香炉から漂う落ち着いた香りがほんのりと部屋を漂っている。
「何か言いたそうだな」
「よろしいでしょうか」
「構わん」
「では」
大きな机の上を片付けた清恭は息を吸った。
「何をしているのですか陛下!!」
大声を出したその手前で、男、黒龍王は両耳を手で覆った。
完全に人払いをしているのをわかった上で、清恭は声を出した。
「何ってお前の家に行っただけだろうが」
「もうお忍びはしないと約束しましたよね?
髪も染めてしまって!
髪の色が黒に戻るまで時間がかかると何度言えば!」
「その為のカツラだろうが、残していて良かった」
「貴重な黒髪を!
黒龍王の証である、あの美しい黒髪を!」
両手で顔を覆い泣き崩れる清恭に、黒龍王と呼ばれる『煌龍(コウリュウ)』は、泣き真似はよせと面倒そうに言う。



