部屋の四方にはろうそくがありそれなりに明るさを部屋に広げているものの、奥にある卓をはさみ座っている明蘭の顔はよく見えない。
より見えなくさせているのは、明蘭が頭から被っている薄衣のせいだ。
落ち着いた声色もあってかより謎めいた雰囲気を醸し出し、男は明蘭の顔が少しでも拝めないかと期待していたが今回も無駄だった。
そういう素っ気ない態度が何故か男性客に好まれているのだが、明蘭からすれば小娘がやっているとわかれば客が来なくなるのでこれも処世術。
「また是非よろしくお願いします。
それと先日お話ししていた明蘭様に引き合わせたい者のことなのですが、外に待たせておりまして呼んでもよろしいでしょうか」
「構いませんよ」
男は女に謝礼の入った袋を渡すと店を出ていった。
明蘭は男が扉を閉めたのを確認し、すぐさま謝礼の入った袋の中身を確認する。
思ったよりも額が多く、にんまりとしそうになった口元を我慢した。
やはり店を続けるために貴族を顧客に絞ったのは、大変ではあったものの正解であっただろう。



