「この手が気になるか?」
「革手袋をしている方をみたのは初めてで」
「少し前に病を患ってな、左手に酷い跡が残っているんだ。
気味悪いというヤツもいるから仕方がなくな。
面倒だから両手に手袋をしているのだが、慣れれば剣も持ちやすいし悪くない」
「不躾な態度を取ってしまい失礼致しました」
「いやいや、気にするな」
こっちだと鴻季は歩き出し、蘭花もそれに続く。
鴻季は蘭花の歩調に合わせて隣を歩いている。
跡が残る病と聞き、蘭花はおそらくあの病だろうと見当がついた。
基本歳をとってなる病気だが、若くして発症する者もいる。
身体の半分にだけ何故か発症する病で、最悪失明したり身体が動かなくなることもある恐ろしい病だ。
その跡が酷いまま残ることも多々あり、市井では伝染病だと忌み嫌われている病の一つだった。
鴻季は歩きながら、ここが官吏の多く住む家がある場所だとか、あの門番は抜けているので外に出やすいとか、市場のあの店はぼったくりだとか段々城内のことよりも外の話が増えてきている。
蘭花はこの楽しげに街案内をする男は、貴族ながら外が好きなのだろうと思った。
(手が見えたらもっと何か感じられるのに)
本来そういう使い方はしないようにしているが、なんとなく、この気楽そうで人を惹きつける笑顔の男が、蘭花はもう少し知りたくなっていた。



