「私に一切質問させてはくれなかったのはされたくないからだわ。
なんで私が後宮などに。
何もかもがわからない・・・・・・」
「私がわかることでしたらお教え致しますよ」
令姿が少しだけ同情したような視線を蘭花に向ける。
蘭花の顔はどうみても普通の貴族の姫達なら憧れる後宮入りに心躍らせる表情ではなく、詐欺師に騙されて偽物の壺を買わされたような顔だ。
令姿は齢十六歳という肩を落とした娘に同情していた。
令姿は清恭の祖母であり、可愛い孫の頼みでこの突飛な策に関わることを引き受けた。
新しい黒龍王となった陛下に付き従っていた清恭は国の安寧のため、陛下のためにと身を粉にして動いて回っている。
しかし新しい御代となり、三年経っても妃を一向に迎え入れない陛下にしびれを切らした。
業を煮やした清恭は空の後宮に数ヶ月ほど前、二人の姫をなんとか迎え入れたものの陛下は最初の挨拶だけで後宮に足を踏み入れることすらしない。
その上清恭が無駄に美しい上、側に置いていることもあって、黒龍王にはあらぬ噂まで立つ始末。
ちまたではどうも、猛々しい黒龍王と美しい側近宦官との愛欲まみれる本が裏で出回っているらしい。
清恭の屋敷に仕える女官達が、どちらが攻めか受けかという話題で盛り上がっているのを聞いてしまい、何も知らない令姿は素朴に疑問をぶつけ女官達が蒼白になったことを思い出した。
(そもそもうちの孫は宦官ではないのだけど)
よからぬ噂の種にされている孫が色々手を尽くしているうちの一つに、まさか怪しげなことを生業とする娘に頼るなど思いもしなかった。
それほどに手を尽くしてしまったのだろう。
しかし連れてきた娘はなかなかの美人。
貧しかったのか若いというのに髪に艶は無く顔の張りも無い。
だがしっかりと栄養を与えて磨けば、かなり良い見栄えとなるだろう。
飴色の長い髪も、大きな瞳も魅力的だ。
市井にいたというのに、礼儀作法がそれなりに出来ていることにも令姿は驚いた。
あとは知識がどれくらいか。
なんとなく腕が鳴りそうな令姿とは反対に、早めにお相手を見つけなければと力なく呟く蘭花が少々面白かった。



