温かな日差しが差し込む中、私は筆を置いて身体を伸ばす。
「奈々花ちゃん、完成したの!?」
「うん、出来たよ。4人で公園に行った日の絵。美坂さんも見る?……あ、由麻ちゃんも……ごめん!まだちょっと恥ずかしいかも……!」
私が顔を赤くなっているのを手で隠しているのを見て、美坂さんが笑っている。
「全然良いよ〜! でも、私はもう奈々花ちゃんって下の名前で呼ぶのもう慣れちゃった」
私が申し訳なくて、ちょっと顔を上げて目を合わせると、美坂さんが「引っかかった!」という様にニヤッと笑った。
「あはは、本当に顔真っ赤だー!」
「っ!? 慣れてないのに意地悪しないでー!」
「これからいっぱい慣れるでしょ?」
ここまで人付き合いに慣れていない私とこうやって笑顔で話してくれる美坂さんに感謝しかなくて。
すると、美坂さんが「あ! ていうか、絵見たい!」と私の絵に視線を向ける。
「わ! めっちゃ上手!」
「ありがとう。今回は4人の表情を上手く書きたくて頑張ったの」
「これは草野くんが飛び上がって喜ぶね」
「そうだと嬉しいけど」
その時、ガラッと美術室の扉が開く。最近はもう部活終わりに草野くんと菅谷くんが美術室に寄るのが習慣になっていた。
「あ! 完成したの!?!?」
草野くんが予想通りテンションが上がっていて、私と美坂さんが顔を合わせて笑った。菅谷くんに近づいてくる。
「奈々花、絵完成したの?」
「うん」
いつの間にか菅谷くんは私のことを下の名前で呼ぶ様になっていて……どこかまだ慣れない。
「菅谷くんも見る?」
「おう」
私も下の名前で呼んだ方が良いのかなと思いつつも、まだ勇気が出なかった。草野くんと菅谷くんが私の絵を見ながら、楽しそうに話している。
それだけで本当に幸せだった。それでも、時計はもう最終下校時刻まで迫っていた。私は一回深く深呼吸をして、美坂さんに話しかける。
「……由麻ちゃん、そろそろ帰ろう」
自然に呼べたのか、由麻ちゃんは目を輝かせ「うん!」と返事をして、荷物を片付け始める。
その反応が嬉しくて、つい顔に出てしまう。その時、何故か菅谷くんがこちらを見ていることに気づいた
驚いた顔をしながら。
「菅谷くん、どうかした?」
「……いや、なんでもないんだけど。その、いや、いい……」
次の瞬間、何故か草野くんが菅谷くんの頭を思いっきりポンっと叩いた。
「いった! 草野、急に何!?」
「いや、女々しいなと思って! それと俺、美坂さんと先に帰るわ!じゃあな」
「は!?!? まじで急に何!」
しかし、草野くんが止まらず、何故か由麻ちゃんまでノリノリで美術室を出ていく。
菅谷くんと2人美術室に取り残された。最終下校時刻まで残り約5分くらい。
「菅谷くん、あの、大丈夫?」
「いや、全然大丈夫なんだけど。あ、そういえば、奈々花、最近病気がどう? 症状の感じとか……」
「大分落ち着いてる。本当にみんなのおかげ。菅谷くんは?」
「落ち着いてるよ」
「……私も菅谷くんやみんながいるから、寂しくない。でも、きっとすぐには治らないよね。それでも、最近は菅谷くんに手を繋いでもらう回数も減ってきて、前に進めているのが嬉しいの」
私はもう一度自分の書いた絵に視線を落とす。
「菅谷くん、私、もう寂しい時間より楽しい時間の方が多いよ。菅谷くんのおかげ」
どうか伝わって欲しい。この言葉にできないほどの感謝を。
すると、菅谷くんは何故か私に近づいて、私と手を繋いだ。
「菅谷くん、もしかして症状出た……!? 大丈夫!?」
「……出てない。出てないけど、奈々花と手を繋ぎたい」
「え?」
「奈々花と一緒にもっと楽しい時間を増やしたい。症状が出てなくても……寂しくなくても、手を繋げる関係になりたい」
その言葉の意味が分からないほど、もう私は幼くなかった。
「ねぇ、菅谷くん」
「ん?」
「今まで安心を伝えるために、寂しさを紛らわすために手を繋いでいたでしょ? これからは『楽しさを伝染させるため』に手を繋ごう」
私は菅谷くんの手をギュッと握り返した。
「菅谷くん、大好きだよ。きっとずっと前からもう大好きだった」
菅谷くんがぼーっとしているような、それでも嬉しさが溢れてきそうな顔をしている。
そして、私の手を一瞬離して、恋人繋ぎに変える。
「ごめん、多分もう俺の方が好きだと思う」
そして、菅谷くんは私に聞こえないほどの小さな声で何かを呟いた。
「美坂さんは下の名前で呼んでもらっているのを聞いて、嫉妬するくらい……」
聞こえなかったの、確かに聞こえなかった。
でも、もう私はそこまで幼くないから。大体何を言ったか想像出来てしまった。
「柊真くん、帰ろっか」
「っ!?」
菅谷くんの顔は真っ赤で、私はつい笑ってしまった。
最終下校時刻を知らせるチャイムが鳴り響く。
「柊真くん、私の手をずっと繋いでいてね」
ああ、らしくないような甘えた言葉を言ってしまった。でも、今日くらいは良いよね。
きっと私だって浮かれてしまっている。だから……
「本当に寂しくないの、柊真くんと手を繋いでいれば」
この本心だけはずっと忘れたくないから。
「奈々花ちゃん、完成したの!?」
「うん、出来たよ。4人で公園に行った日の絵。美坂さんも見る?……あ、由麻ちゃんも……ごめん!まだちょっと恥ずかしいかも……!」
私が顔を赤くなっているのを手で隠しているのを見て、美坂さんが笑っている。
「全然良いよ〜! でも、私はもう奈々花ちゃんって下の名前で呼ぶのもう慣れちゃった」
私が申し訳なくて、ちょっと顔を上げて目を合わせると、美坂さんが「引っかかった!」という様にニヤッと笑った。
「あはは、本当に顔真っ赤だー!」
「っ!? 慣れてないのに意地悪しないでー!」
「これからいっぱい慣れるでしょ?」
ここまで人付き合いに慣れていない私とこうやって笑顔で話してくれる美坂さんに感謝しかなくて。
すると、美坂さんが「あ! ていうか、絵見たい!」と私の絵に視線を向ける。
「わ! めっちゃ上手!」
「ありがとう。今回は4人の表情を上手く書きたくて頑張ったの」
「これは草野くんが飛び上がって喜ぶね」
「そうだと嬉しいけど」
その時、ガラッと美術室の扉が開く。最近はもう部活終わりに草野くんと菅谷くんが美術室に寄るのが習慣になっていた。
「あ! 完成したの!?!?」
草野くんが予想通りテンションが上がっていて、私と美坂さんが顔を合わせて笑った。菅谷くんに近づいてくる。
「奈々花、絵完成したの?」
「うん」
いつの間にか菅谷くんは私のことを下の名前で呼ぶ様になっていて……どこかまだ慣れない。
「菅谷くんも見る?」
「おう」
私も下の名前で呼んだ方が良いのかなと思いつつも、まだ勇気が出なかった。草野くんと菅谷くんが私の絵を見ながら、楽しそうに話している。
それだけで本当に幸せだった。それでも、時計はもう最終下校時刻まで迫っていた。私は一回深く深呼吸をして、美坂さんに話しかける。
「……由麻ちゃん、そろそろ帰ろう」
自然に呼べたのか、由麻ちゃんは目を輝かせ「うん!」と返事をして、荷物を片付け始める。
その反応が嬉しくて、つい顔に出てしまう。その時、何故か菅谷くんがこちらを見ていることに気づいた
驚いた顔をしながら。
「菅谷くん、どうかした?」
「……いや、なんでもないんだけど。その、いや、いい……」
次の瞬間、何故か草野くんが菅谷くんの頭を思いっきりポンっと叩いた。
「いった! 草野、急に何!?」
「いや、女々しいなと思って! それと俺、美坂さんと先に帰るわ!じゃあな」
「は!?!? まじで急に何!」
しかし、草野くんが止まらず、何故か由麻ちゃんまでノリノリで美術室を出ていく。
菅谷くんと2人美術室に取り残された。最終下校時刻まで残り約5分くらい。
「菅谷くん、あの、大丈夫?」
「いや、全然大丈夫なんだけど。あ、そういえば、奈々花、最近病気がどう? 症状の感じとか……」
「大分落ち着いてる。本当にみんなのおかげ。菅谷くんは?」
「落ち着いてるよ」
「……私も菅谷くんやみんながいるから、寂しくない。でも、きっとすぐには治らないよね。それでも、最近は菅谷くんに手を繋いでもらう回数も減ってきて、前に進めているのが嬉しいの」
私はもう一度自分の書いた絵に視線を落とす。
「菅谷くん、私、もう寂しい時間より楽しい時間の方が多いよ。菅谷くんのおかげ」
どうか伝わって欲しい。この言葉にできないほどの感謝を。
すると、菅谷くんは何故か私に近づいて、私と手を繋いだ。
「菅谷くん、もしかして症状出た……!? 大丈夫!?」
「……出てない。出てないけど、奈々花と手を繋ぎたい」
「え?」
「奈々花と一緒にもっと楽しい時間を増やしたい。症状が出てなくても……寂しくなくても、手を繋げる関係になりたい」
その言葉の意味が分からないほど、もう私は幼くなかった。
「ねぇ、菅谷くん」
「ん?」
「今まで安心を伝えるために、寂しさを紛らわすために手を繋いでいたでしょ? これからは『楽しさを伝染させるため』に手を繋ごう」
私は菅谷くんの手をギュッと握り返した。
「菅谷くん、大好きだよ。きっとずっと前からもう大好きだった」
菅谷くんがぼーっとしているような、それでも嬉しさが溢れてきそうな顔をしている。
そして、私の手を一瞬離して、恋人繋ぎに変える。
「ごめん、多分もう俺の方が好きだと思う」
そして、菅谷くんは私に聞こえないほどの小さな声で何かを呟いた。
「美坂さんは下の名前で呼んでもらっているのを聞いて、嫉妬するくらい……」
聞こえなかったの、確かに聞こえなかった。
でも、もう私はそこまで幼くないから。大体何を言ったか想像出来てしまった。
「柊真くん、帰ろっか」
「っ!?」
菅谷くんの顔は真っ赤で、私はつい笑ってしまった。
最終下校時刻を知らせるチャイムが鳴り響く。
「柊真くん、私の手をずっと繋いでいてね」
ああ、らしくないような甘えた言葉を言ってしまった。でも、今日くらいは良いよね。
きっと私だって浮かれてしまっている。だから……
「本当に寂しくないの、柊真くんと手を繋いでいれば」
この本心だけはずっと忘れたくないから。



