「おー、いたいた快吏(かいり)!」


いつも人に囲まれて過ごしている彼
渡邊(わたなべ)快吏(かいり)は僕の数少ない友達、、、とも言えないかもしれない


というのも渡邊からはちょっと距離を感じているからだ
ただのクラスメイトというかんじである


だからということでもないが、前の席で盛り上がってるグループの中心核である渡邊に校内で僕から話しかけることはできない


もともと話しかけることもなかったけど


だけどそんな彼の話は耳をダンボにして聞いてしまう
視線はどこをみてればいいのかわからないから机に突っ伏している
でも気になるから隙間から渡邊を覗いてみたりも......


「っ!」


バレたことは一度もなかったはずなのに
なのに今日は目があってしまった
き、気まずい!!


ちょっと口角が上がったように見えたのは気のせいか、ふいと何事もなかったかのように顔を背けて身内話に混ざる渡邊



「そうそう、聞きたかったのはあの投稿だよ」
「あー!それ私も聞きたかった」



僕はSNSのアカウントを持っていないから''あの投稿''が何を指すのかわからない
やっぱり入れるべきだろうか



「向かいに映ってたのココの生徒だろ?」
「『恋人限定!夏のカップスリーブ』になってたよね?!」


「......思い出」



ざわつく周りに、呆れたといわんばかりに『はぁ。』とため息をつく渡邊


渡邊に恋人か
あれだけのイケメンを放っておく女子がいるはずない


アッシュグレーに染まる髪をセンターパートにセットしている彼
切れ長の二重まぶたに、高い鼻筋が印象的な、涼しげな顔立ち


校則に則っていない制服の着方なのにクールで落ち着いた雰囲気を醸し出している彼


だから、彼女の1人や2人いても全然おかしくない



「誰と行ったんだよ!彼女か??」
「快吏ってば彼女いたの?!言わないなんて水くさいなー」



彼の友達が根掘り葉掘り聞こうとしている
いつも騒がしいはずの教室がいつになく静かだ
きっと誰しも渡邊の''彼女''が気になるのだろう


かく言う僕も少しばかり気になっている
どんな人が彼の事を射止めたのか


だけれど、彼はそんな質問をさらりと「さーな」と交わす



「授業始まっから早く座れよ」



散った散ったと手で友達を払う彼に友達はこれ以上情報は得れないと思ったのか自分の席へ戻っていく


しばらくして始業のベルが鳴った
授業が始まったが、集中できるはずがない


篠島(しのじま)さんが彼に一番近い女子だが、先程の反応からみて彼女ではなさそうだ


いつも校内で一緒にいる松尾(まつお)くんでさえ知らなかったのだから、同学年ではないのかもしれない


うちの高校は去年から共学になった関係で同学年に女子は少ない
だが、下の学年は何の効果か男女比に差がほとんどない


この前誰かが『渡邊効果』とか言ってたけれど、実はこれ正しいのかもしれない


亘鍋said end