高校生にもなって電車で大泣きしていたら、さすがに恥ずかしいよな。そんなこと、分かってはいるんだけど。

 まだまだ高2になったばかりの、5月頭の放課後。乗客たちの視線が痛くて、オレ、時枝(ときえだ)風太(ふうた)はいつもなら通過するだけの駅で降りてしまった。春風が少し癖のある茶髪をかき混ぜて、学ランと頬を撫でてくれたけど。それでも涙は乾かない。ピタッと止められる魔法があるのなら、ぜひ誰か教えてほしい。


 見知らぬ駅前。怪しい人物を窺うかのように、遠巻きに見てくる人たち。

「ここどこだよー……オレ、バカじゃん」

 そう呟いたら、ああ、オレマジでひとりぼっちじゃんって思い知る。虚しさがふくらんで、ぐすんと鼻をすする。

 あーあ、これじゃあダダをこねるガキみたいだ。付き合っていた人にフラれたからって、人目も気にせず号泣して。

 いよいよ居た堪れなくなってきた。こんなところにいても仕方がない、家に帰ろう。そう決めて、改札へ引き返そうとした時だった。

「あ!」

 と大きな声が、どこからか聞こえてきた。思わず声の出どころを探せば、ブレザーを着た高校生らしき男子が息を切らしているのが見えた。なにかあったのかな。首を傾げたのも束の間、彼はなぜか、こちらへ向かって歩き出した。まっすぐと、脇目も振らずに。

「え、え、なに!? オレ? じゃないよね!?」
「なあ、あんた! もしかして……」

 大股でぐんぐんと近づいてきた男は、オレの目の前で立ち止まった。うわ、デカい。身長なんセンチ?

 なんて驚いていたら、ガシリと両腕を掴まれた。おまけに、やけに整った顔をグッと近づけられる。ターゲットはオレじゃありませんように、なんて願望はみごとに打ち砕かれてしまった。

「えっ、マジでなに!?」

 襟足の長い髪、着崩したブレザー。首にはヘッドホンをかけている。不良とまではいかないまでも、ちょっとチャラい印象の男は、なにか必死な様子だ。けれどその表情が、みるみる内にしぼんでいく。眉はしゅんと下がってしまった。

「え、泣いてんの?」
「あ……ええーっと……」

 面と向かって聞かれると、返答に困る。でも仕方がない。ごまかせないほどひどい顔をしていることは、自分でよく分かっている。

「は、はい。お恥ずかしながら、泣いてました……」

 消え入りそうな声で、弱々と頷く。あ、情けなさすぎてまた泣きそう。どうか、どうか放っておいてほしい。でもその願いも虚しく、手首を掴まれ、

「こっち」

 と手を引っ張られる。

「えっ!? ちょ、なに!?」
「俺と話しよ。たしかこっちに公園があったから」
「え、いやいや、話ってなんの……ええ〜……」

 一体なにをされるのだろう、怖い。けれど抵抗できる気力なんて、オレには残っていなかった。