︎︎⟡
今日の出来事が頭から離れない。
あの後、結局あれやこれやと何故か連絡先を交換して。いつの間にか俺は目の前の通知とにらめっこしていた。
[ 明日、放課後空いてる?]
「空っ、いてるけどさぁ…!」
独り言にしては大きい自分の声が部屋に反響する。空いてはいる…そりゃあもう。
毎日のように放課後には少女漫画を読み続け、そのために三浦にだって嘘をついてきたのだから。
遊びに誘われても理由をつけて断る俺に、もう誘ってくる相手はいなくなってしまった。
でも今回は違う。
久我には俺の秘密は知られてしまってる訳で、断る理由もきっと簡単に見透かされるだろう。
「はぁ〜〜〜⋯」
深いため息が漏れつつも、未だに胸のドキドキは消えていなかった。
────俺は、佐倉がそんなふうに夢中で話してるの結構好きだけどな。
あー!思い出すな!
一言一句覚えてしまってる自分に頭を抱える。
本当に⋯本当に、あんなこと言われたことなかった。初めてのことだったんだ。あの言葉が頭を反芻するだけで、自然と口角があがってしまう。
布団に顔をうずめてゴロゴロと転がる。
「…っていうか、何してんだよ。俺」
胸がじんわりと熱くなるのを感じる。
連絡がきて、まんざらでもないって思ってしまっている自分がいる。久我の声、顔、笑顔──ぜんぶ頭から離れなくて、気づけばまた顔が熱くなっていた。
「…やば……」
無意識に枕を抱きしめ、足をバタバタさせる。俺は乙女かっての。
いや、でもこれは──恋。なんかでは断じてない!
友達…そう、友情に似たような感情だ。
ただ、初めて趣味に対して優しい言葉を言われて頭がバグを起こしてるだけ。
それ以上でも、それ以下でもない。
[うん]
結局、送った返信はたったの一言。
質素で、素っ気なくて、でもこれが今の俺にできる精一杯だった。
スマホを胸に抱えて、ドキドキが収まらないまま布団に潜り込む。
明日、なにかするのかな。どこかに行ったりとか…?
いやいや!何を考えてる。
これじゃまるで、本当に少女漫画みたいだ。
︎︎⟡
「さーくら。おはよ」
「…っ。お、ハヨウ」
「っ、ふっ、はは!何でそんなカタコトなんだよ」
急に端正な顔が飛び込んできて、つい反射的に驚いてしまった。朝から心臓に悪い…。
「あー、そうそう。放課後さ」
まだ笑いの余韻が抜けてないのか、息を整えながら久我くんが俺に喋りかける。
が、なぜか次の言葉をなかなか口にしない。しまいには周りをキョロキョロと見回している。
「?、どうし」
どうしたの、と口にしようとした瞬間息がひゅっと止まりそうになる。久我の顔がいつの間にかすごく近くにある。
「ちょっと耳。貸して」
「⋯?」
言われた通りに耳を傾ける。息がかかって少しくすぐったく感じるけど、まぁ仕方ない。
「⋯少女漫画のこと。現実じゃ起きないことって、そう言ってたよね?」
その瞬間、ドキリと胸が跳ねる。
「うん、そうだけど…」
久我が少しだけ眉をひそめ、周りを再度確認してから、低い声で続ける。
昨日の反省もあるのか俺にしか聞こえないようにしてくれている様子を見て、少しだけ嬉しくなってしまう。
「それ、好きなら現実でも試してみる?」
「は⋯⋯?」
思わず目を見開く。試す?
少女漫画のシチュエーションを…?何を言ってるんだ。
「んー…あぁ、例えば壁ドンとか?」
その言葉を聞いて、心臓が一気にバクバクと速くなる。壁ドンって!
なんで俺がされる側なんだよ?!そもそも、俺は男だし。
どっちかって言えば普通はやる側なんじゃ、あれ?でも少女漫画を読んでる時はヒロインに感情輸入してる時の方が多いような…。
頭の中では大混乱が起こっているが、一旦冷静になる。
「いや、それって…久我にメリットなくない?なんでそんなこと急に」
俺が言うと、久我は肩をすくめて微笑んだ。
「だって…」
「だって?」
「だって、もっと佐倉の好きなもの知れるじゃん」
久我があまりにも普通の表情で言うものだから驚いてしまう。胸の奥がぎゅっと締め付けられて、でも少し暖かくてつい口元が緩みそうになる。
「それに俺、佐倉のこともっと知りたいから」
「……なっ、」
変な気分だ。久我がこんなこと言うなんて、想像もしてなかった。
なのにどこか嬉しいような、照れくさいような気持ちがこみ上げてくる。
現実で少女漫画を再現する、っていうのは正直意味がわかんないけど…。
それでも久我は俺の趣味を否定しないで、理解しようとしてくれている。そんなの正直おかしいことのはずで。ありえないことで。
けど、真剣な表情を見ると嘘をついているようにも見えなくて。
「⋯俺にし、ても意味ないと思う。けど、久我が知りたいなら、その⋯好きな話、とか教える」
しどろもどろで、そのくせなぜか上から目線。
我ながら嫌われる返しだな!とあとから後悔する。
でも久我はなぜかふふん、と嬉しそうに笑っている。
なんでだよ?
そんな時にふと騒がしい声がこっちに響いてきた。
「久我ー。佐竹が彼女に振られたから慰めてやって」
「えー、じゃあ相談料100円な」
「おい!金とんのかよ〜俺傷心中なのに⋯久我きゅんひどい」
クラスでもムードメーカーの佐竹。それに久我を呼んでるのはまさにクールって感じの狼谷だ。
話したこともほぼないし、狼谷と一瞬ばちっと目が合ってしまってすご気まづい。すぐに逸らしてしまったし印象悪くなったかも⋯。
そんな俺の気持ちを汲んだのか、はたまた何も考えていないのか、久我は
「また後で」と俺の頭をくしゃっと軽く触ってから陽キャ集団の元へと向かっていった。
「⋯⋯⋯これ、天然?」
机に突っ伏してから窓の方を向くと、やけに風が冷たく感じるのは気のせいだろうか。
頬が熱くなるのを抑えながら、放課後が来るのを少しだけ待ち遠しく思っている自分がいた。
今日の出来事が頭から離れない。
あの後、結局あれやこれやと何故か連絡先を交換して。いつの間にか俺は目の前の通知とにらめっこしていた。
[ 明日、放課後空いてる?]
「空っ、いてるけどさぁ…!」
独り言にしては大きい自分の声が部屋に反響する。空いてはいる…そりゃあもう。
毎日のように放課後には少女漫画を読み続け、そのために三浦にだって嘘をついてきたのだから。
遊びに誘われても理由をつけて断る俺に、もう誘ってくる相手はいなくなってしまった。
でも今回は違う。
久我には俺の秘密は知られてしまってる訳で、断る理由もきっと簡単に見透かされるだろう。
「はぁ〜〜〜⋯」
深いため息が漏れつつも、未だに胸のドキドキは消えていなかった。
────俺は、佐倉がそんなふうに夢中で話してるの結構好きだけどな。
あー!思い出すな!
一言一句覚えてしまってる自分に頭を抱える。
本当に⋯本当に、あんなこと言われたことなかった。初めてのことだったんだ。あの言葉が頭を反芻するだけで、自然と口角があがってしまう。
布団に顔をうずめてゴロゴロと転がる。
「…っていうか、何してんだよ。俺」
胸がじんわりと熱くなるのを感じる。
連絡がきて、まんざらでもないって思ってしまっている自分がいる。久我の声、顔、笑顔──ぜんぶ頭から離れなくて、気づけばまた顔が熱くなっていた。
「…やば……」
無意識に枕を抱きしめ、足をバタバタさせる。俺は乙女かっての。
いや、でもこれは──恋。なんかでは断じてない!
友達…そう、友情に似たような感情だ。
ただ、初めて趣味に対して優しい言葉を言われて頭がバグを起こしてるだけ。
それ以上でも、それ以下でもない。
[うん]
結局、送った返信はたったの一言。
質素で、素っ気なくて、でもこれが今の俺にできる精一杯だった。
スマホを胸に抱えて、ドキドキが収まらないまま布団に潜り込む。
明日、なにかするのかな。どこかに行ったりとか…?
いやいや!何を考えてる。
これじゃまるで、本当に少女漫画みたいだ。
︎︎⟡
「さーくら。おはよ」
「…っ。お、ハヨウ」
「っ、ふっ、はは!何でそんなカタコトなんだよ」
急に端正な顔が飛び込んできて、つい反射的に驚いてしまった。朝から心臓に悪い…。
「あー、そうそう。放課後さ」
まだ笑いの余韻が抜けてないのか、息を整えながら久我くんが俺に喋りかける。
が、なぜか次の言葉をなかなか口にしない。しまいには周りをキョロキョロと見回している。
「?、どうし」
どうしたの、と口にしようとした瞬間息がひゅっと止まりそうになる。久我の顔がいつの間にかすごく近くにある。
「ちょっと耳。貸して」
「⋯?」
言われた通りに耳を傾ける。息がかかって少しくすぐったく感じるけど、まぁ仕方ない。
「⋯少女漫画のこと。現実じゃ起きないことって、そう言ってたよね?」
その瞬間、ドキリと胸が跳ねる。
「うん、そうだけど…」
久我が少しだけ眉をひそめ、周りを再度確認してから、低い声で続ける。
昨日の反省もあるのか俺にしか聞こえないようにしてくれている様子を見て、少しだけ嬉しくなってしまう。
「それ、好きなら現実でも試してみる?」
「は⋯⋯?」
思わず目を見開く。試す?
少女漫画のシチュエーションを…?何を言ってるんだ。
「んー…あぁ、例えば壁ドンとか?」
その言葉を聞いて、心臓が一気にバクバクと速くなる。壁ドンって!
なんで俺がされる側なんだよ?!そもそも、俺は男だし。
どっちかって言えば普通はやる側なんじゃ、あれ?でも少女漫画を読んでる時はヒロインに感情輸入してる時の方が多いような…。
頭の中では大混乱が起こっているが、一旦冷静になる。
「いや、それって…久我にメリットなくない?なんでそんなこと急に」
俺が言うと、久我は肩をすくめて微笑んだ。
「だって…」
「だって?」
「だって、もっと佐倉の好きなもの知れるじゃん」
久我があまりにも普通の表情で言うものだから驚いてしまう。胸の奥がぎゅっと締め付けられて、でも少し暖かくてつい口元が緩みそうになる。
「それに俺、佐倉のこともっと知りたいから」
「……なっ、」
変な気分だ。久我がこんなこと言うなんて、想像もしてなかった。
なのにどこか嬉しいような、照れくさいような気持ちがこみ上げてくる。
現実で少女漫画を再現する、っていうのは正直意味がわかんないけど…。
それでも久我は俺の趣味を否定しないで、理解しようとしてくれている。そんなの正直おかしいことのはずで。ありえないことで。
けど、真剣な表情を見ると嘘をついているようにも見えなくて。
「⋯俺にし、ても意味ないと思う。けど、久我が知りたいなら、その⋯好きな話、とか教える」
しどろもどろで、そのくせなぜか上から目線。
我ながら嫌われる返しだな!とあとから後悔する。
でも久我はなぜかふふん、と嬉しそうに笑っている。
なんでだよ?
そんな時にふと騒がしい声がこっちに響いてきた。
「久我ー。佐竹が彼女に振られたから慰めてやって」
「えー、じゃあ相談料100円な」
「おい!金とんのかよ〜俺傷心中なのに⋯久我きゅんひどい」
クラスでもムードメーカーの佐竹。それに久我を呼んでるのはまさにクールって感じの狼谷だ。
話したこともほぼないし、狼谷と一瞬ばちっと目が合ってしまってすご気まづい。すぐに逸らしてしまったし印象悪くなったかも⋯。
そんな俺の気持ちを汲んだのか、はたまた何も考えていないのか、久我は
「また後で」と俺の頭をくしゃっと軽く触ってから陽キャ集団の元へと向かっていった。
「⋯⋯⋯これ、天然?」
机に突っ伏してから窓の方を向くと、やけに風が冷たく感じるのは気のせいだろうか。
頬が熱くなるのを抑えながら、放課後が来るのを少しだけ待ち遠しく思っている自分がいた。


