久我くんの前では隠せない

そもそもなんで久我が図書室なんかにいたんだ

滅多に人が来ることのない、もう廃れてしまった図書室。正直、完全に油断していた。

でもよりにもよってあの久我くんが来るなんて、一体誰が想像できただろう。

"久我 蒼"

クラスでは中心人物で、いつも誰かしらが必ず周りにいる。いわゆる陽キャ…。
飄々とした性格で、やや掴みどころのないその態度はあまり関わりのない俺でもなんとなく感じることができる。

彼を好きになる女子は数えきれないほどいる。

「ねーえ、蒼!放課後カラオケ行こーよ」
「パス」
「えー。蒼いないとつまんないよぉ」

およそ好きな人の前でしかださないような甘い声が簡単に空を切る。久我くんはそれを気にも留めず、軽く言い放つ。

そんな光景を何度見てきただろう。

少女漫画好きの俺からしたら、久我はまさにヒーロー的ポジション。

それに、俺が好きな漫画に出てくる『蒼』という登場人物と名前が同じだってことも、なんだか運命的に感じて彼のことはつい覚えてしまっていた。

まさにリア充。俺とは全く違う別の世界の住人だ。そう思っていた。

なのに。それなのに。

「なんで…俺?!」

こんな少女漫画展開⋯ある訳ないのに。
漫画の中ではよく見る展開だ。脅しから発展する恋⋯最初は気に食わない奴だと思っていた相手を徐々に好きになってしまう。
そんなところに、脅した相手とは性格も真反対のような優しい当て馬がでてくる。
でもなぜか、アイツのことを忘れられなくて…って違う!!!
今は少女漫画に浸ってる場合じゃないだろ。

「はぁ〜〜〜…」
深い溜息がこぼれる。明日への不安を感じながらも俺は眠りについた。

︎︎⟡

「代わりに、俺の言うこと聞けよ」
「は、はぁ⋯!?なんだよそれ!」
「バラされたくないんだろ?」

そうやって笑う彼の表情は悪魔のようで、それでいて甘い天使のようにも見えた。
まさかこんなことになるなんて⋯!

彼の顔が徐々に近づいてきて⋯ん?この顔は久我くん?あれ⋯なんでこんなことになってるんだ。
唇が重なりそうなほどに近い距離、深い瞳に吸い込まれそうに⋯

「って…やめろぉおー!!」
ガバッと布団から起き上がると服に汗が少し染みているのが分かる。
自身の汗と朝の肌寒さが混ざりあってぶるっと身震いする。真冬にこれはあまりに良くない。

なぜこんな夢を見てしまったのか。そんなことを考えるのはやめよう。

けれどこれでハッキリと分かった。

───少女漫画展開なんて俺にはいらない!

「ぅ、さむ……」
最悪の目覚めだ。