久我くんの前では隠せない


ガタン!
無造作に靴を放り投げ、リビングのドアを開けることも忘れてその場で膝をついた。

「うううう……」
手のひらで顔を覆いながら、そのまま床にゴロンと転がる。

「なんで、こうなったんだ……?」

心臓がまだバクバクと騒がしい。自宅に着いてもしばらくは冷静になれそうもない。

───

「少女漫画、好きなの?」

久我の声が、信じられないほど冷静に耳に届いた。けれど、こちらはというと完全にパニックだ。

「……ちがっ、そ、そんなわけないだろ!」
言葉が勝手に口から転がり出る。

「ほーん?」
久我が表紙を見つめ、口元にうっすら笑みを浮かべたままページを閉じる。その態度が余計に心臓に悪い。

「違うって言ったら、違うんだよ……っ!」

手を伸ばして本を取り戻そうとするが、彼はするりと交わしながら軽く本を持ち上げた。
まるで猫にじゃれているようなからかいようだ。

「ふーん……まあ、別に言いふらしたりはしないけどさ」

「っ!ほんとに?」
その言葉にホッとしたのも束の間、彼の次の言葉が突き刺さる。

「あー⋯でも、次は教えてよ。何読んでるか気になるし」

「え、いや、別に……そ、そういうのは……」

「じゃまたな。秘密、守る代わりによろしく」

久我は肩をすくめながら笑っていて。それはからかうというより、なんとも軽い、気の置けない笑顔だった。

───

未だに先程までの出来事が現実だと信じられない。
床に頭を打ち付けるようにして、わずかに呻く。

「秘密を守る代わりに教えろって…なんでそうなるんだよ…俺の平和な少女漫画ライフが…!」