夕暮れが山を覆い始める頃、学校に一本の電話が入った。
「2年4組の遠足バスが予定時刻を過ぎても戻りません」
 教員室の空気が一変した。担任教師である神谷先生を含むクラス全員が行方不明だという報告に、教頭は慌てて管理会社や警察に連絡を入れる。
 数時間後、警察よる捜索が開始され、バスのGPSが最後に記録された位置が山奥であることが判明した。異常を感じた警察隊は、その地点に向かい、さらに深く廃墟へと続く細い山道を進んでいった。
 夜になり、捜索隊がようやく朽ちた廃墟の敷地に辿り着く。
 月明かりの下、錆びついた鉄門が異様な雰囲気を放ち、その奥に薄暗くそびえる廃校が現れる。周囲には虫の声もなく、不気味な静けさだけが漂っていた。
「ここか.......?」
 一人の隊員が呟くと、リーダーが手振りで進むよう指示する。廃墟の門を押し開けると、乾いた金属音があたりに響いた。その音がやけに大きく感じられた。
 廃墟の周囲を捜索していた隊員の一人が、崩れた裏庭の片隅で何かを見つける。
「こっちだ!.....何かある!」
 声が上がり、全員が駆けつける。そこにあったのは、濡れた地面の上に横たわる一つの遺体だった。
 死体は制服姿の少年一一春樹だった。
 その顔は恐怖に歪み、胸には鮮明な銃創が残っている。周囲には足を止めた隊員たちの緊張した空気が漂う。
「これは......明らかに他殺だ。至近距離から撃たれている」
 検死担当の隊員が声を低くした。少年の傍らには血痕が広がり、それはさらに廃校の内部へと続いていた。
 リーダーが冷静さを保ちながら指示を飛ばす。
「応援を呼ぶ。廃墟の中に犯人と生徒がいる可能性が高い。全員その場で待機だ」