「……答えは、破滅1択だよ」







 だから、離れよう。







 そう短く続けられた言葉に、わたしの瞳から零れ落ちた涙。思えば、この時はじめて先輩の前で泣いた気がする。夕立が降る街で、先輩がさす傘の中、彼は困った顔をして微笑んだ。






 それから少しだけ躊躇して、すぐにわたしの瞳から零れ落ちそうに膨らんでいる涙だけを親指で拭ってくれた。






 「でも、俺はたしかに一途だし、ちょっとずつ普通になりたくて。だからパチンコなんかじゃなくて、自分でお金を稼いで」






 「違います、わたしはたった一度も普通になってほしいなんて願わなかった……先輩は、わたしにとっての先輩は。だから普通になった先輩は好きじゃないです」







 それに、先輩の格好や話し方から察するに今お勤めの所も堅気の仕事をまわしてくれているわけではないはずだ。だから、まだわたしの好きな先輩に見えていたのに。拒否される度に、彼からキラキラが消えていく。







 「否定しないでください、わたしの好きだったあなたのことを。わたしの先輩を」







 「ありがとう。俺もきみが、好きだったよ」







 だから。なんてありきたりな接続詞を使って、彼は傘で入道雲の下から空を裂いた。







 「幸せになってね(じゃあね)







 余韻もなく、先輩がそう手を振ってわたしに背を向けて歩き出した瞬間、彼が裂いた空の切れ目から太陽が出てきて街に光が差し込んできた。