どうか、先輩だけは幸せにならないで











 ふいに頭上からポツリと雨が落ちてきて、ちょうど持っていた傘を開いてふたりではいった。







 「まだ、この傘持っててくれたんだね」






 「当然でしょう。唯一の置土産、みたいなものだったんですからね」





 「それに関しては、巻き込みたくなかっただけなんだ。こっちの仕事を始めてからは俺が家に帰ると、過去に金を借りてた組織からきみが狙われたり、大なり小なり危害がおよぶかもしれなかったから⋯⋯ずっと帰れなかった。ちゃんとお別れ出来なくてごめんね」






 「なんで、さっきからお別れするようなノリなんですか?」





 「それは……俺だときみを幸せに出来ないってようやく気が付けたからだよ」






 「わたしは先輩が隣にいるだけで幸せです」






 「駄目だよ。俺ときみが一緒にいた先に待ってるのはなんだと思う?」






 きみのためなんだ、わかってくれ。
 なんて、あの泣きながらわたしに縋った日と同じ声色で説得されたら、なにも言えなくなる。