「あのね、馬鹿なのは俺だったんだ」
「そんなことないです」
「はいはい、黙って聞いてね。俺さぁ、きみにパチンコのこと謝った日ひどかったでしょ。あの日ね、実はきみ以外にお金を借りてたとあるところから追いかけ回されて、まあ路地裏でいろいろされた後だったんだ」
言葉を濁した先輩がそっと縋りついていたわたしの手を剝して、かわりにグシャグシャになった紙を握らせてきた。
当時の先輩が陥った凄惨な状況を容易に想像させるほど、こびりついた血痕でその紙が元はなんだったのか、よくわからない。
首を傾げてみれば、
「ここ、見て」
そう先輩に指さされた箇所を見つめてみる。
「……結婚指輪?」
たしかにその紙には『資金利用目的 結婚指輪を買うこと』と彼の文字で書かれていた。
ただその紙が明らかに怪しげな借用書であることが気にかかるけれど。
「そう。それを買うためにパチンコして、負けて。買うために今度は借金して……今の俺は、割のいいバイトだって友人が進めてきた仕事⋯⋯金貸しの取り立て人をやってなんとか生計を立てているんだ」
なんの因果だよ、って話だよな。と先輩が力なく笑った。もう子どもみたいな可愛さも、意地悪さも持ち合わせていないような、無味無臭な笑顔だった。



