「知ってる? 入道雲っていうか、夏の雲は横に平べったく、縦に長いその様子はよくソフトクリームに例えられるってこと。……あ、なんかソフトクリーム食べたくなってきた。ねえ、コンビニ行かない?」
そう言って彼だけが玄関から出ていってしまう。まだ見える背中を追いかけようとしても、足が縺れてうまく走れない。最後の悪あがきみたいに、待って、と手を伸ばしても。
その指先が彼の手につくかつかないかのところで、いつも先輩の残像も彼がわたしに残していった言葉も消えていってしまう。
コンビニに一緒に行って、アイスを買うことはないまま、いつもこの辺で。
けたましいアラームの音がだんだんと覚醒してきた意識の間で聞こえてきて、目が覚める。
そして、目が覚めたら忘れてしまうのだ。
先輩に焦がれている夢の内容、なんて。
「おはよう、先輩」
今日も挨拶が返ってくることがないと知りながら、声をかけるのをやめられなかった。今日は運が良かった、ツイてただの言って部屋に帰ってきているかもしれないから。今でもそんな幻想を捨てきれないほど、先輩が出ていってからも彼との思い出は、わたしの背骨になって生活を支えてくれていた。



