それから何ヶ月かぶりに、先輩は朝ごはんが並ぶテーブルの前に座って、手を合わせた。
 「いただきます」なんて今更すぎる挨拶の後、ゆっくりと箸を持って、まだ湯気がたっているわかめの味噌汁を静かに啜る。






 ほんのりと紅潮した頬に力が入って、彼の箸がほうれん草のおひたしや、鮭の西京焼きに次々と伸びていく。目を輝かせて、口元をもぐもぐと動かす先輩は生き急いでる小動物みたいで、可愛くて仕方がなかった。






 最後に残ったわたしの作ったかんたんなお茶漬けさえ、この上なく美味しそうに食べてくれた先輩。ありがとう、と伝えるべきかわからず、言えなかったお礼の言葉。けれど、そう悩んでいる間にもしっかりと時は進んでいて。







 箸を置いた彼は律儀にまた、手を合わせた。







 「ごちそうさま」同棲して初めて、そんな言葉を残して先輩は家を出ていった。今日だけは、その背中が見えなくなるまで扉から半身出して見送ることにする。乾いたシャツからは肩甲骨も背骨のラインも見えなかったけれど、それで良かった。







 今日の先輩は、見惚れるほど綺麗な背筋をしていた。それこそ、人々を守るという大切な使命を背負っているヒーローよりもずっと。