「それでは、今日から。
  最上級生としての自覚をもって⋯⋯」




 担任教師の声が遠くから聞こえてきて、窓際の一番後ろの席でため息を吐いた。




 4月、最上級生、3年生、なんて響きは嫌いだ。




 年長者でいる事を押し付けられている様で、窮屈に感じるし。何より、追いかけるべき先輩がいない学校は味気なく感じる。





 遠くに行ってしまった背中は、追いかけたくてもすでに視認することさえ叶わない。




 先輩がいない春なら、一生冬でも良いと思っていたのに。





 気が付けば、校門に咲いていたはずの梅の花は散っていて、先輩はもう学校にいなかった。





 先輩の教室だった場所は、わたしの教室で。先輩の使っていたかもしれない机は、今、わたしに肘をつかれている。





 先輩が着ていたブレザーも、今はわたしのものだ。手のひらに引かれた生命線を隠すほど長い袖から、ほんのりとシトラスが香って泣きそうになる。





 本当はね、同じ学年とクラスになれたら、隣の席に座れたり、背なかを見るだけじゃなくて、同じ目線で生きていけるんだろうな。




 と思って、留年してほしいと頼んだなんてこと。知らなかったでしょう、先輩。