泣き倒された日から、わずか1週間。
「……じゃあまた、3万貸してくれる?」
「勝ったら、わたしたちの未来のために大きな傘を買ってくれるならいいですよ」
エアコンのない部屋でカタカタと首を横に降る扇風機の前で、わたしは力強く頷いていた。
財布の中から3枚10000円札を抜き取ると諭吉と目があってしまった。
けれど別に、罪悪感はない。
「本当は雨に濡れた俺のほうが好きなくせに、傘が欲しいなんて。物好きだね、きみって」
あ。ほら、またそうやって呆れたように笑うけど、本当は嫌いじゃないんでしょ。と付け加えられた言葉に、わたしは微笑みだけを返した。
ねえ、先輩こそ。
本当は嫌いじゃないですよね。
都合のいいわたしのことも。
「あーあ、夏とかだりぃね」
「今日はツイてるといいですね」
それに本当はだるくて暑い夏のことも、突然降り出す夕立のことも、蝉の声を聞きながら飲む柚子サワーだって。
ぜんぶ、嫌いじゃないですよね。
でも、そんなわかりきったことをわざわざ答え合わせせずとも、わたしだけが知っていればいいかな、と思って口には出さなかった。



