揺れて震えた声を隠そうともせずに、鼻を啜りながら先輩はまだ口を開く。







 「僕にはもう、きみしかいないんだ」






 「……わたしにも先輩しかいませんよ」







 「お願い、捨てないで」






 「大丈夫です。わたしが先輩を捨てることなんてないですよ。惚れた方が負けって言うじゃないですか」






 「……だから、またお金貸して」







 「……え、せんぱい?」








 「今度こそ、大勝ちして楽な生活させてあげるから。今度こそ……幸せにするから」







 コンパの日。あんなに大人びて見えた先輩も、わたしが大人になってしまえば、随分と情けなく見えた。けれど不思議と嫌いにはなれない。







 むしろ今度は、わたしが先輩を守らなくちゃ。あの日ひとりだったわたしを助けてくれた救世主を今すぐ救わなければならないと思った。







 「いいですよ。先輩がやりたいなら、わたしのお金でいくらでもパチンコをして、お酒を飲んで、煙草を吸ってください」







 「……ねえ、怒ってる?」






 「怒ってないです。先輩がそれで幸せになれるなら、わたしはいくらでもお金を出します」






 「じゃあ、俺は必ずきみを幸せにする」







 涙を流して、しゃくりあげる嗚咽に波打つ背中をポンポンと叩けば、すこしは落ち着いてきたみたいだった。肩で息をしているのか、首筋に荒い息がかかって、すこしくすぐったかった。