先輩と過ごす、2回目の夏。






 4年生になったはずの彼は、スーツに腕を通すどころか大学にも顔を出さずに、こうしてわたしの家のベランダで煙草をふかして1日を終わらすことが増えてきた。







 そのことになにか言うつもりも、文句もない。
 これからも先輩がわたしを嫌わず、そばにいてくれるのなら、大学に通わないことも就活活動をしないことも可愛く思えた。







 「ねえ、見て」






 5階とそんなに高くないボロアパートのベランダから見えたのは、今にも充分大きな入道雲を覆い隠すように被さろうとしている、より広範囲に勢力を広げている平たいくせに厚みのある灰色の大きな雲。






 「降るね。ほら、蝉の声も聞こえない」







 先輩はよく言っていた。
 ゛蝉の鳴き声が止んだら、夕立が来る合図゛
 なんて。





 思わず、息を呑んで先輩の腕の中から空を見上げた。ウッと眉を顰めたくなるほどの蒸し暑さに襲われても、目を逸らさなかった。







 「夕立が降りだしたら、夏が壊れるのなんてあっという間だね」






 そんな中、後ろから声と手が伸びてきて






 「ハハッ、楽しそう。俺らも走りに行く?」






 なんて、笑いながら彼が煙草で指を差した先を見つめてみれば。







 ついにポツリ、ポツリ。と降り出した雨の中、すこし遠くの通りで、幼稚園バスから降りてきた園児とその保護者が泥を飛ばしながら走り帰っていくのが見えた。