「……先輩、」
「なあに?」
「明日、起きたら帰っちゃいますか?」
泊まってくことを前提に、そう切り出すと
「しおらしくなっちゃって、可愛いね」
意外にも頬をほんのり赤く染めた先輩が笑う。その熱が、わたしの頬にも飛び火してきて懸命に頭を振って冷まそうとしながら言い返した。
「うるさいです。でも、うるさいくらいの方が雷の音、紛れるんで……助かったっていうか」
「ふーん。じゃあ、明日からもずっと居候してもいいの? 家事も炊事も金を稼ぐことも出来ない俺はきみを幸せにできるとは思えないけど本当にいい?」
「先輩にじゃなくちゃ、こんな恥ずかしいこと言いませんよ。それに家事も炊事もお金を稼ぐことだって、ぜんぶわたしがやります。わたしの幸せは、先輩と暮らせることなんです……。だから、勝手に幸せに出来る出来ないなんて、ひとりで完結して答えを出さないでください」
「フハッ、熱烈だねぇ」
こうして同棲を始めた夏、真っ只中。
おはようもおやすみも、ただいまもおかえりも先輩の1日を独り占めできるようになった。そのことがどうしようもなく嬉しくて、次の日はたしか夏休み前最後の授業だったのだけど、全く頭の中に入ってこなかったのを憶えている。



