「ありがとう。きみなら警戒心なく、俺のこと部屋にあげてくれるって信じてたよ」






 「……別に、そういうんじゃないです」






 「そお?」






 入道雲の下で泣いてる先輩を放っておけなかっただけです。なんて彼の真似をして、クサくて甘い台詞を吐くのはまだ少しだけ気恥ずかしくて、とてもじゃないけど言えなかった。







 「それより、風邪引かれたら困るんで。お風呂入っちゃってください」






 これ以上、雰囲気のちがう先輩を見ているのが堪らなくて彼の腕を引っ張ってお風呂へ放り込んだ。髪の毛の上に乗せていたタオルがタイルの上に落ちたのを見て、磨りガラスでできた風呂兼トイレの扉をしめた。






 瞬間、全身の力が抜けて磨りガラスに寄りかかるように座り込んでしまった。






 ……まだ、指先から先輩の腕を握ったときの感覚が抜けてくれない。固くて、太い。男の人なんだなって、感触がした。ちょうど血管があったから先輩の鼓動も感じられて、改めて彼がこの世界に生きていることを認識できた。






 「あ、洋服。ねえ、脱いだ服ビショビショなんだけどトイレの上に置いてもいい?」







 赤く火照ってぼんやりと先輩のことを考えていた頭の中に突然、先輩本人の声が響いた時は驚いたけど、それ以上にひとの家のトイレに濡れた衣服を置いていいと思っている彼に驚いた。







 「なッ! 駄目にきまってるじゃないですか。……着替え持ってきますから、とりあえずバスタブの足元に置いといてください」






 「はーい」
 なんて間延びした不安しかない返事に






 「それと、シャワーカーテンちゃんと締めてくださいね。湿気でトイレットペーパーが使い物にならなくなっちゃうんで」






 と喝をいれるつもりで、叫び返した。






 お風呂の前から部屋に戻ると、先輩のシャワー音が聞こえてきて雷鳴など気にならないことに気が付いて、ひとり口元が緩んでしまった。