それから、自分の部屋にある中で一番ふわふわとしたお気に入りのタオルを彼に手渡す。受け取りざまに、本当にうれしそうに目を細めて微笑んできた先輩。








 彼に何度撃ち抜かれたかわからない心臓を、今度こそ抉りとられてしまわないように顔を背けた。耳まで熱くなっていたから、その行為に意味があったのかはわからないけれど。








 この時ばかりは視線を背けた先で、目に入った部屋がそれなりに整頓されているように見えて、普段から部屋の中を綺麗に清潔に保っておいて良かったなと思った。







 「で、なんで俺から目を逸したの?」






 「別に、そらしてないです」






 「ええ、俺のこと好きなら見てよ。今なら漏れなく雨も水も滴ってるからさ」






 そう言われたら抗えなくて、そっと視線を戻した。白を基調とした部屋の蛍光灯の下で水を滴らせる先輩は、いつもと違って妖艶に見えた。







 なんで、どこが? って聞かれても困ってしまう。だって、好意を持った相手の濡れた首筋とか、普段は目の上でふわふわさせている前髪をぜんぶあげて額を出しているところとか。







 あと珍しく白いTシャツを着ているかと思ったら、雨に濡れたせいで背中にぴたりとくっついて透けた生地に浮き出た綺麗な肩甲骨と背骨のラインがたまたま見えちゃったとか。







 そういうのって。理由を上げ出したら、キリがないものだと思う。