「先輩、来るなら来るって言ってくださいよ」
「ごめんごめん。悪気はなかったんだ、ただちょっと今日はツイてない日だったみたいで」
蝉の声よりもけたましく鳴らされたチャイムに玄関を開けると、土砂降りを背景にして先輩が立っていた日もあったっけ。
たしか、急に夕立が降った日。雷がちょうどわたしの家の真上で鳴っていた頃。
ひとりでいるには心細い涼しさが部屋の中に充満してきた、ちょうどその瞬間。空を飛べるスーパーヒーローでも計れないほど良すぎるタイミングで、先輩はわたしの前にあらわれた。
「大丈夫、泣いてなかった?」
落ち着くやさしい声色に玄関扉を開けたまま、ひとことふたことだけ文句を言ってから、冷えるといけないからと家にあげてしまった。



