「いや、住所書いた紙で紙飛行機作られたら嫌だな〜って思っただけです。その、個人情報的に、一応女の子のひとり暮らしですし」
え? と首を傾げた先輩はすぐに合点がいったのか、大きく頷いてから口を開いた。
「大丈夫だよ。きみからの手紙なら中身が住所でも、本物のラブレターでも絶対捨てたりしない。もちろん、紙飛行機にだってしないよ」
熱量が込められた視線を感じて、たじろいでしまう。まるで本気で口説かれているかのような気持ちになって、頬の体温が3度上がった。
「まあまあ、書いてくれたら気まぐれに泊まりに行ってあげるから。寂しい夜はもう来ないと思いながら書いていいよ」
「いや、わたしの家ボロいアパートだし。ワンルームなんで、先輩を泊める場所なんてありませんよ。残念ながら」
「え、気にしなくていいよ。俺、きみとおなじベッドで寝られるからさ」
鼓動がはやくなる。
身体中を流れる血液が熱くて、熱くて、このままだと茹だってしまいそう。
「……ね。だから、俺は今一途になってるって言ったじゃん。なあに、ドキドキしたの?」
「……し、してません!」
真っ赤な頬を隠すために、両手で一旦顔全体を覆う。その指先の間からそっと先輩を見やれば、先輩もこちらを覗き込んでいて心臓が飛び出るほど驚いた。
「じゃあ、書いてくれるよね」
「……わたしになにか利はありますか?」
「そうだね。きみがもし入道雲の下で泣いてたら、俺がすぐに駆けつけて涙を拭ってあげる」
仕方がないですね、なんて差し出されたペンを持ったわたしはかなりチョロかった。けれど、それもまあ若気の至りって名前の遊びだったと思えば、随分と可愛い思い出だったなと思う。



