「それでさ、一説によると。満面の笑みみたいな太陽がキラキラ笑ってた空が、夏に限って突然、機嫌の悪そうな鈍い灰色の雲を広げて雨を降らせるのは、その下には必ず泣いてる子がいるからなんだって。ほら、雨ってさ、涙を隠してくれるでしょ」
そう語った先輩は、ほのかに柚子が香る大きなジョッキに注がれたサワーをあおった。甘くてやさしげな顔立ちからは想像できない、豪快な飲みっぷりが見ていて、逆に気持ちが良い。
「だからさ、夕立に降られるとなんか俺まで悲しくなっちゃうの。たとえば俺の知らないところで、きみやこれまでに出逢った女の子たちが、入道雲の下で泣いてたとしても、俺がきみの居場所を知らなかったら、その涙を拭えないし。そもそも夕立に降られてるのを知らなかったら、気が付けないんだ。それって悲しいでしょ?」
と目を伏せた彼を、詩的で素敵な人ですね。なんてアルコールが回った空気に酔って、ジュースを呑んでいただけでふわふわとした頭で反射的に返したら、気に入られちゃったんだっけ。



