東京23区の東端の方。家賃は1ヶ月で4万円、すこし狭いワンルームふたり暮らしでも幸せ。
「俺のどこが好きなの?」
そんな問いになんの恥じらいもなく
「雨に濡れたシャツが背中にくっつくと見える綺麗な背骨と浮き出た肩甲骨です」
とか言えちゃうくらいあなたのことが好きだから、どうしようもなく甘やかしちゃうの。
「……じゃあまた、3万貸してくれる?」
「勝ったら、わたしたちの未来のために大きな傘を買ってくれるならいいですよ」
エアコンのない部屋でカタカタと首を横に降る扇風機の前で、わたしは力強く頷いた。
「本当は雨に濡れた俺のほうが好きなくせに、傘が欲しいなんて。物好きだね、きみって」
あ。ほら、またそうやって呆れたように笑うけど、本当は嫌いじゃないんでしょ。
ねえ、本当は嫌いじゃないですよね。
都合のいいわたしのことも。
「あーあ、夏とかだりぃね」
「今日はツイてるといいですね」
夏の日も、すこしうるさい蝉の声も、もちろん突然降りだす夕立のことも。



