彼はしつこくて追い払うより、懐かせた方が楽な気がした。あれから毎日、わたしがいる喫煙所に顔を出しにくるなんて物好きにもほどがある。ただ、あれから一度もわたしから生きがいを奪おうとしない彼を責められない。





 肺が悪いくせにマスクをしてまで喫煙所に来る精神は、深いところではわたしと同じなのかもしれない。生きるためではなく、死ぬために生きるような退廃的な生き方。決してわたしをわかろうとせず、愚痴を聞いて、煙草を吸うわたしを眺めているだけだったら良かったのかもしれない。同類、だったのかもしれない。




 ただ、彼はわたしに好意を向けて。いかにもわかっています。と理解者のようなふりをし始めた。それが彼の本性だったのかもしれない。




 だけど、わたしはその顔が嫌いだった。笑顔を貼り付けた顔の奥で、彼を嗤う。きみにわたしのなにがわかるの? と。たった1、2週間でわたしでさえ見失いかけた生きがいをわたし自身をわかったふりをするな、なんて。





 ましてや、好意なんて向けてほしくなんてなかった。いつ死んでもいいと思ってたのに。こうして、さあ!死んでやろう。と心に決めた瞬間に、きみの顔がチラついて離れない。





 屋上の柵の前で綺麗に厚底の靴を並べておいたのに。準備は万端。思い残すことなどないはずだったのに。